令和8年9月15日、北見在宅圏域多職種連携・ケアネットワーク(代表幹事:菊地 憲孝先生)の活動の一つである、第1回「看取りの質(QoD)調査・地域還元ワーキングチーム」を開催しました。
このワーキングチームは、施設や在宅での看取りに関する調査を行い、その結果を地域に還元し、医療・介護のケアの質向上につなげることを目的としています。昨年度まで北見市の在宅医療・救急医療ワーキングチームで取り組んできた「看取りの質」の調査を、今年度から独立した活動として発展させるものです。
昨年度の調査から見えてきたこと
令和7年度は、北見市内の特別養護老人ホーム10施設にご協力いただき、過去2年間に施設で亡くなられた方のご遺族を対象にアンケート調査を行いました。
回答内容を分析したところ、看取りの質は全体として中程度から高い水準にありました。一方で、同じように施設で看取りを受けた場合でも、ご遺族の受け止め方にはさまざまな違いがあることも分かりました。
特に重要だったのは、次の二つの要素です。
① 医療・介護職との関係性
② 看取りに至るまでの経過や判断に対する納得感
また、自由記載の内容を分析すると、看取りにはおおよそ三つの形があることが見えてきました。
昨年度の遺族アンケートでは、看取りの受け止め方には一様ではない 3 つの傾向が見られました。大切なのは、医療や介護の内容だけではなく、ご本人とご家族、そして支援する職員との関係性や、選択への納得が看取りの評価に深く関わっていたことです。
- 関係性と納得がそろった看取り
このグループでは、「感謝している」「ここでよかった」といった前向きな言葉が多く見られました。ご本人、ご家族、職員の間に信頼関係があり、日々の関わりや最期の時間を穏やかに受け止められていたことがうかがえます。
死の質を評価する Good Death Inventory の結果も高く、心身の苦痛への配慮だけでなく、「大切にされていた」「家族として納得できた」と感じられる関わりが、よい看取りにつながっていたと考えられます。
- ケアによって支えられた看取り
このグループでは、認知機能や身体機能の低下により、ご本人が日常生活を送るうえで大きな困難を抱えているケースが多くありました。それでも、ご家族からは「任せてよかった」「安心できた」といった声が寄せられました。
背景には、施設職員がご本人の状態や変化を丁寧に伝え、ご家族の不安に寄り添っていたことがあります。困難な状況であっても、十分な情報共有と信頼できる関係があれば、ご家族は支えを感じながら最期の時間を受け止められます。これは、ケアと関係性によって成立する看取りのかたちです。
- 気持ちがのこる看取り
このグループでは、「あれでよかったのだろうか」「もっとできることがあったのではないか」といった後悔や迷いが語られていました。最期に立ち会えなかったこと、判断に十分に納得できなかったこと、対応に違和感が残ったことなどが、ご遺族の気持ちの整理を難しくしている様子がうかがえます。
死の質の評価も他のグループよりやや低く、看取りの経験を肯定的に意味づけることが難しいケースが含まれていました。こうした声は、誰かを責めるためのものではありません。連絡のあり方、説明のタイミング、選択をともに考える対話、看取り後のご遺族への支援などを見直すための大切な手がかりです。
看取りは、亡くなる瞬間だけで終わるものではありません。ご家族がその経験をどのように振り返り、納得や安心を得られるかという過程も含めて、看取りの質を考えていくことが大切です。
看取りは、亡くなられる瞬間だけで終わるものではありません。ご家族にとっては、その後も「あれでよかったのだろうか」と振り返る時間が続きます。看取りの質を考えるときには、亡くなられた後のご家族への支援や、グリーフケアの視点も欠かせません。
今年度はヒアリングへ
令和8年度では、アンケートだけでは十分に分からなかったご家族の思いや背景を、直接お聞きすることを計画しています。
特別養護老人ホームで看取りを経験されたご遺族5~6人程度を対象に、印象に残っている出来事や、医療・介護職との関わり、看取りをめぐる判断、よかったと感じた対応、今も心に残っている後悔や苦悩などについて、丁寧にお話を伺う予定です。
お話しいただいた内容は、個人や施設が特定されないように慎重に分析します。そのうえで、医療・介護関係者がご家族の声を受け止め、看取りの場面で何を大切にすべきかを考えるための資料としてまとめます。
重要なのは、ヒアリングをして報告書を作成することだけではありません。ご家族の声を医療・介護関係者が共有し、意見交換を行うことです。そこで生まれた気づきや問いを、それぞれの現場での実践につなげていきたいと考えています。
施設だけでなく、在宅や地域全体へ
今年度の調査は、施設での看取りを対象としています。しかし、看取りの場は施設だけではありません。在宅、病院、グループホーム、有料老人ホームなど、それぞれに異なる環境と課題があります。
在宅で長く療養された場合と、施設や病院で看取りを迎えた場合では、ご本人やご家族の経験も異なります。そのため、今後、在宅での看取りを調査する際には、対象や方法を別に考える必要があります。
また、看取りの後にご家族へ手紙を送る、面談の機会を設ける、遺族同士が語り合える場をつくるなど、さまざまな支援の可能性についても意見が出されました。医療機関や施設が単独で取り組むだけでなく、地域全体で支える仕組みを考えていくことが大切です。
看取りを、特別なことにしないために
今回のワーキングでは、調査結果を専門職だけで共有するのではなく、市民の皆さんにも丁寧に伝えてはどうかという意見がありました。
看取りや死については、日常生活のなかで語りにくいテーマです。しかし、誰にとっても避けて通ることのできない、身近な問題でもあります。
この地域で、看取りについて考え、語り、学ぶ活動が行われている。その事実を知っていただくこと自体に意味があります。すぐに一つの答えを示すのではなく、ご家族の声に触れた一人ひとりが、それぞれの立場で考える。その積み重ねが、医療・介護職との関係や、地域のケアのあり方を少しずつ変えていくのではないでしょうか。
看取りの質は、誰か一人が決めるものではありません。本人、ご家族、医療・介護職、そして地域に暮らす私たちが、関わりのなかでともにつくっていくものです。
今年度は、11月頃に関係施設へ活動内容を説明し、協力を得ながらヒアリングを進めます。その後、内容の分析、医療・介護関係者との意見交換を行い、令和9年3月頃の報告書作成を目指します。
ご家族の声を出発点に、北見の看取りを地域全体で考える。そのための一歩を、今回のワーキングから始めていきます。

