令和7年8月により北星記念病院は北海道より北見在宅医療圏域における「在宅医療に必要な連携を担う拠点」へ指定されました。これに伴い、今号より「北見在宅医療圏連携拠点センター」との合同のニュースレターとしてお送りします。
過去のニュースレター「第1号から第18号」はこちらから
【寄稿】 看取りの質は「関わりの中でつくられる」 ― ご家族の声から見えてきた3つのかたち ― 高齢者施設における遺族調査の結果速報
米田 将基(理学療法士)Cathalyst(カタリスト)
北見市内の高齢者施設における遺族調査の結果を報告します。我が国では多くの高齢者が施設や病院で最期を迎える一方、施設入所高齢者の死の質(Quality of Death:QoD)に着目した実証研究は十分に行われていません。本調査では、国内で開発され妥当性が確認されているGDI(Good Death Inventory) 短縮版を用い、施設高齢者の死亡場面に適用した初期的検証をおこなうことを目的に実施しました。本稿では、研究チームの米田 将基氏(理学療法士/Cathalyst)が、ご家族の声をもとに「看取りの質は関わりの中でつくられる」という視点から、その具体像と現場への示唆を報告します。
▌はじめに
北見市では65才以上高齢者の8.1%が老人ホーム(特養・養護・軽費・有料)で亡くなられています。その看取りの質について検討することは、ケア専門職にとっても行政にとっても、重要な情報です。今回、在宅医療・救急医療ワーキングチーム会議(北見市在宅医療・介護連携推進事業・北見在宅医療圏連携拠点センター)では市内10施設の特別養護老人ホームの協力により、施設を死亡退所した遺族に対し、看取りに関する調査をおこないました。
調査アンケートでは、多くのご家族が「よくしてもらった」「ありがたかった」といった感謝を述べており、日々の関わりの積み重ねが大切に受け止められていることが伝わってきました。一方で、その内容を丁寧に見ていくと、看取りの体験はひとつではなく、いくつかの異なるかたちがあることがみえてきました。
▌看取りの 3 つのかたち
今回の結果から、看取りは大きく3つの傾向に分かれました。
①よい形で見送れた看取り
このグループでは、「感謝」「よかった」という言葉が多く、本人・家族・職員の関係性が良好でした。死の質を評価する指標(Good Death Inventory)も高得点であり、全体として穏やかに終末を迎えられています。これは、「関係性と納得がそろった看取り」と言えそうです。
②支えられて成立する看取り
このグループでは、本人としては認知機能や身体機能の障害が重く、生活に難しさがある状態でした。しかし、「任せてよかった」「安心できた」という声が多く、ご本人の状況を逐次連絡しているなどの体制に思いの重心が置かれていました。死の質もグループ①と同様に高く、職員との関係が支えになっている「ケアによって支えられた看取り」のかたちとなっていました。
③気持ちの整理が難しい看取り
このグループは、「後悔」「迷い」「どうだったのか」という語りが特徴的であり、対応や判断に対する違和感を伝える声が多く書かれていました。看取りの意味づけが揺れており、死の質もやや低い「気持ちがのこる看取り」でした。
▌ご家族の語りから見えてきたこと
ご家族の自由記載を整理すると、① 感謝の言葉はどのグループにも多く、② 「任せられる安心感」は看取りの安定につながる一方、③ 「これでよかった」と思えるかどうかが大きな分かれ目になっており、④ 後悔や迷いは一定数存在する、ことがわかりました。したがって、施設内の看取りは単なる結果ではなく、専門職や家族がどのように関わり、どのように受け止められたかで大きく変わることを示しています。
▌現場への示唆
今回の結果からは、いくつかのヒントが示唆されます。① 家族との関係は「看取りの質そのもの」であり、説明や関わり方が、その後の受け止めに影響している(離れて住んでいても、家族である)
② 「任せられるかどうか」が重要であり、技術だけでなく関係性が鍵となって、安心感が入所者の死の質を支えている
③ 看取りは「亡くなられたあとも続いて」おり、語ることでご家族の気持ちが整理されるように、看取り後の関わりにも意味がある
▌最後に
今回の結果は、看取りの質を「良い・悪い」で評価するのではなく、「関係性の中でどのように成立しているか」という視点の重要性を示しています。
また、自由記載の中には「語ることで気持ちが軽くなった」という声もあり、看取り後の関わりの重要性も示唆されました。
今後も、ご本人だけでなくご家族も含めた関わりを大切にしながら、よりよい看取りのあり方を考えていく必要があります。
【報告書はこちらから 】
「死の自己決定」はなぜ制度に裏切られるのか 「どこで死ぬか」ではなく、「どう生き切るか」について考える
北見在宅医療圏連携拠点センター 関 建久
先日、佐々木淳先生(医療法人社団 悠翔会 理事長 )の記事「『死の自己決定』はなぜ制度に裏切られるのか」 を読み、「どこで死ぬか」ではなく、「どう生き切るか」について感じたことを紹介します。(高齢者住宅新聞 2026.4.15第840号:有料記事)
▌在宅看取りが少ないのは制度設計の問題
記事では、「自宅で最期を迎えたい」と希望する人が多い一方、実際に在宅で看取られる人は少ない現状について述べられていました。一般的には在宅医療の不足が主な理由と思われています。しかし佐々木先生は、問題の本質はそこではなく、「本人の希望を実現できる制度設計になっていないことにある」と指摘しました。特に印象的に残ったのは、「本人の希望」よりも、「何かあったときに、周囲(親戚や世間)に対して納得のいく言い訳ができる」ことが優先されてしまう、という言葉です。
在宅での看取りには、急変時の不安のみならず、何かあった際の責任の曖昧さがあります。一方で入院すれば責任の所在は医療機関に移ります。そのため、本人が「家で過ごしたい」と望んでいても、周囲へ正当な理由を説明できること(説明責任の担保)が優先される。これは現場でも確かに起きていることだと感じます。
▌ ACP は「確認」ではなく「実現」のためにある
また、ACP(人生会議)についても、「意思を確認すること」が目的化してしまっているのではないか、という指摘には深く納得しました。本来ACPは、本人の価値観や希望を支え、その実現に向けて伴走するためのものです。しかし現実には、「確認した」「記録した」で終わってしまうことも少なくありません。
私たちが本当に考えなければならないのは、「どこで死ぬか」ではなく、「最期までどう過ごしたいか」なのだと思います。
「自宅で死ぬこと」そのものが目的ではありません。住み慣れた地域、人とのつながり、自分らしい生活が保たれること。その延長線上に、その人らしい最期があるのだと思います。
▌「循環する ACP 」という視点
だからこそ、ACPも「延命するかどうか」を指向するのではなく、日々の暮らしや価値観について対話し続ける営みであることが必要です。そしてその対話は、医療機関だけでも、介護側だけでも完結しません。入院をきっかけに始まり、退院後も地域で育てられ、再入院時にまた確認される。そんな「循環するACP」が必要なのではないでしょうか。
▌支える側の安心をどう設計するか
また記事の最後にあった、「支える側の安心も同時に設計しなければならない」という言葉も印象的でした。
在宅療養を支えるには、本人だけでなく、家族や支援者も「何かあったときに支えがある」と感じられることが重要です。
今後、超高齢社会が進む中、私たちは「どこで看取るか」だけでなく、「本人の希望をどう支えるか」を地域全体で考えていく必要があります。ACPとは、そのための「対話の土台」なのだと改めて感じました。
ACPとは、「最期の医療」を決めることではなく、「どう生きたいか」を支える対話です。これからも地域の医療・介護関係者とともに、その対話を支える土壌づくりを進めていきたいと思います。
▌研修会のお知らせ
6月16日(水)開催予定の「第4回 北見在宅圏域多職種連携・ケアネットワーク研修会 」では、「フュータイル・ケアと人生会議 ー後悔しない最期のためにー」 をテーマに開催します。多くの方のご参加をお待ちしています。(4頁参照)
「迷わない地域づくり」へ、スノーフレーク・リーダーシップ 北見在宅圏域多職種連携・ケアネットワークの令和8年度の活動計画が始動します
先日開催された第2回北見在宅圏域多職種連携・ケアネットワーク幹事会(代表幹事:菊地 憲孝先生)では令和8年度からの活動方針と具体的な活動計画を決定しました。特徴は関係者の主体的な活動を歓迎することです。活動計画をご紹介します。
▌活動の核となる「 4 つの場面」と「 8 つの事業」
北見在宅医療圏域(北見市、美幌町、津別町、訓子府町、置戸町)の医療・介護・福祉の未来をつくる「北見在宅圏域多職種連携・ケアネットワーク」の令和8年度活動計画を決定しました。在宅医療の現場では、入退院、日常の療養、急変時、看取りといった様々な場面でどう判断すべきかという「迷い」が生じています。本ネットワークは、「迷わない地域づくり」をスローガンに、現場の困りごとを解決するための具体的な8つのプロジェクトが打ち出されました。私たちの目指すのは、10年後に「日本で一番、最期まで暮らせる地域」「医療や介護のことで迷わない地域」と評価されるモデルの確立です。これまでの多職種連携をさらに現場のニーズに即した「4つの在宅医療の場面」に整理して活動を展開します。
1. 入退院支援
①入退院時情報共有ルール整備
市町ごとに異なる連絡ルールを整理し、標準的な情報共有の仕組みを構築します。
②地域でつなぐACP推進
「平時は切り出しにくい」という現場の声に応え、「入院」をきっかけに対話を開始(一言聞き、一行記録する)し、在宅へ繋ぐ継続モデルを推進します。
2. 日常の療養支援
③重度化予防推進
口腔・栄養・運動・服薬を一体的に捉え、多職種でフレイル予防に取り組みます。
④高齢者施設連携強化
形式的な協力医療機関契約を超え、急変時や入院調整において「実際に機能する連携」のマッチングを支援します。
3. 急変時の対応
⑤救急搬送適正化・不搬送ルール検討
搬送の判断に迷う現場の負担を軽減し、本人や家族の意思に沿った判断を地域ルールとして確立します。
⑥看取りの質(QoD)調査
施設や在宅での看取りに関する遺族アンケートの結果を地域へ還元し、ケアの質向上に繋げます。
4. 看取り
⑦在宅医療グループ診療体制構築
医師の負担を分散させ、持続可能な24時間のバックアップ体制を検討します。
⑧在宅医療普及啓発
10月に開催予定の「北海道在宅医療推進フォーラム in きたみ」を通じ、住民と共に「自分らしい最期」を考えます。
▌スノーフレーク・リーダーシップ
代表幹事の菊地憲孝先生(オホーツク勤医協北見病院 院長)は、「雪の結晶(スノーフレーク;以下参照)のように現場の一人ひとりがリーダーシップを発揮し、繋がっていく組織」を理想として掲げました。
https://eijionline.com/n/nb419f9f1b880より
積極的に活動するメンバーだけでなく、「まずは様子を見たい」という方も歓迎するなど、誰もが心理的に安全に参加できる環境を整えます。
▌共に活動する仲間を募集します! 5月26(火)に開催された「第3回研修会 」にて、これらのワーキングチームのメンバー募集を開始しました。住民はもちろんのこと 「支援者を孤立させない在宅医療文化」を、私たちと一緒に育てていきませんか。
令和8年度の研修会などのご案内 北見在宅医療圏連携拠点センターと北見市医療・介護連携支援センターでは令和8年度に以下の研修会を開催いたします。日時が未定のものについては決定次第ご案内いたします。
第 4 回 北見圏域多職種ネットワーク研修 会 ←詳細はこちら
フュータイル・ケアと人生会議 -後悔しない最期のために-
日時: 令和8年6月16日(火) 18:30から20:00
場所:オホーツクJA Bldg.(オンライン参加可)
対象: 北見在宅医療圏の医療・介護従事者
報告:施設入所高齢者の死亡時ケアと医療的対応に関する 質問紙調査研究調査速報
講演:フュータイル・ケアと人生会議₋後悔しない最期のために₋
講師:橋本 政明 先生 逢縁クリニック(最高顧問・医師)
締切り: 6/11(木)まで
第 9 回 通所サービス事業所意見交換 会 ←詳細はこちら
通所ケア実践ラボ( Lab.) ‐知恵と工夫のケアを共有し、多職種で学ぶ‐
今回は現場の実践を持ち寄り、意味を読み解き、誰もが使えるケアの知識として共有する場をつくります。単なる情報交換の場に留まらず、ケアの実践知を持ち寄り、専門知で意味づけし、地域(通所サービス職員や介護支援専門員)で共有・蓄積する「知識生産の場」とします。
日時:令和 8 年 7 月 16 日(木) 18:00 ~ 19:30
場所:北見市役所 5階 505会議室
対象:北見市内の通所介護、通所リハビリ、居宅介護支援事業所や介護予防に携わるケアマネジャー、その他
締切:7/13(金)
第 5 回 北見圏域多職種ネットワーク研修 会 ←申込はこちら
「相談される薬剤師」になる条件― 薬剤師の提案をチームで完成させる―
日時:令和 8 年 7 月 24 日(金) 18:30~20:00
場所:オホーツク JA Bldg.
担当:北海道薬剤師会北見支部、北見在宅医療圏連携拠点センター
第 6 回 北見圏域多職種ネットワーク研修会
地域でつなぐ ACP を考える (予定)
日時:令和 8 年 8 月中下旬 18:30~20:00(日時未定)
場所:オホーツク JA Bldg.(場所未定)
担当:地域でつなぐ ACP 推進ワーキングチーム
第 7 回 北見圏域多職種ネットワーク研修会
入退院連絡における情報共有の課題と解決を考える(案)
日時:令和 8 年 9 月頃 18:30~20:00(日時未定)
場所:オホーツク JA Bldg.
担当:入退院時情報共有ルール整備ワーキングチーム
北海道在宅医療推進フォーラム in 北見
日時:令和 8 年 10 月 3 日(土) 10:00~15:00 (仮)
場所:オホーツク JA Bldg.
対象:地域住民・医療・介護関係者
公益財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団 2026 年度ブロックフォーラムの助成を受け開催予定です
第 5 回北見市医療と介護の実践報告会
日時:令和 8 年 10 月 3 日(土) 15:30~17:30 (予定)
場所:オホーツク JA Bldg.
対象:医療・介護関係者
演題:演題を募集近日開始します(8演題の予定)
第 8 回 北見圏域多職種ネットワーク研修会
社会的健康規定因子( SDH )の視点から多職種連携を考える ‐ なぜ連携しても悪くなるのか、その構造に迫る ‐
日時:令和 8 年 11 月 6 日(金) 18:30~20:00
場所:オホーツク JA Bldg.(予定)
講師:西岡 大 輔 先生
(神戸大学大学院医学系研究科 社会健康公正学部門・准教授・医師・社会福祉士)
社会的健康規定因子( SDH )とソーシャルワーク
日時:令和 8 年 11 月 7 日(土) 14:00~16:00
場所:オホーツクJA Bldg.
社会的健康規定因子(SDH)の視点を通じ、クライエントの健康課題を医療的要因にとどめず、生活環境や社会構造の影響として捉え直し、個別支援と構造的課題への介入を統合的に実践する視点を獲得します。
講師:西岡 大輔先生(神戸大学・医師・社会福祉士)
ワークショップ:「この人は、どこで悪くなったのか?」をSDHで再構成する
対象:医療ソーシャルワーカー、社会福祉士
【ご案内】
北見在宅圏域多職種連携・ケアネットワーク チームメンバーを募集します。添付のチラ シ よりお申込みください。
入会をご確認後、ワーキングチームごとに会議などのご案内をさせて頂きます。関わりの度合いに応じた参加で結構です。多くの皆さんの応募をお待ちしています。