ACPを「特別なもの」から「日常の対話」へ──北見発、地域でつなぐ新しい挑戦

2026年6月、北見市でワーキングチームの一つが動き出しました。「地域でつなぐACP推進ワーキングチーム」。集まったのは看護師、理学療法士、言語聴覚士、ケアマネジャー、元救急隊員、市議会議員、そして医療従事者たち。多職種が一つのテーブルを囲み、率直に語り合いました。

「正直に言って、ACPという単語を5月の研修会で初めて知りました」

市議会議員で元救急隊員の参加者が、会議冒頭で切り出したこの言葉が、この日の雰囲気を象徴していました。飾らない、率直な対話。それがこのワーキングチームの出発点です。

ACP(アドバンス・ケア・プランニング) ─日本では「人生会議」とも呼ばれるこの概念。終末期医療の選択だけでなく、その人がどう生きたいかを話し合い、支える取り組みです。しかし現場では、「難しい」「ハードルが高い」「何から始めればいいかわからない」という声が溢れていました。

 1. 認識の壁:「特別な儀式」になってしまったACP

「外来勤務の時は部署が小規模だったから仲間と相談しながら進められて、患者さんに聞いたらすごく喜んでくれた。でも病棟へ異動したら、ほとんどやってなくて『難しい』と言うスタッフばかり」

ある病院の看護師が語ったこの経験は、多くの参加者に共通していました。ACPを「核心を聞かなければいけない特別なもの」と捉えるあまり、踏み出せない。一方で、別の理学療法士はこう気づきます。

「患者さんと20分リハビリしながら話していることが、実はACPにつながっていた。『道路を渡れるようになりたい』『孫の運動会に行きたい』─そういう生活目標を共有することでいい」

 2. 連携の壁:情報が「途切れる」システム

「外来と病棟、そして地域への結びつきが全然できていない」「入院中に家族が語った思いを、次のリハビリ病院に引き継げていない」

ACPは一度決めたら終わりではなく、「揺れながら深まる」プロセス。しかし、現状では病院内ですら情報共有が不十分。ましてや在宅や施設との連携は、ほとんど機能していませんでした。

 3. 制度の壁:救急現場の「法的ジレンマ」

「DNARは患者と病院と家族の約束事であって、救急隊との約束事ではない。法に触れる可能性があるので、どう扱っていいか迷う」

年間7,500件の出動のうち、高齢者が65%、CPA(心肺停止)案件208件中、DNARの意思表示があったのは8人。しかし不搬送になったのはわずか1人─救急隊員の切実な声が、制度と現実のギャップを浮き彫りにしました。

ワーキングチーム発起人の一人が提案したのが、「地域連携型ACPモデル」という考え方です。

ステップ1:入院中にACPを始める 

「入院生活」という非日常的な環境だからこそ、患者も家族も「この先どうなる?」と考える。医療者が寄り添い、対話のスイッチを押す。

ステップ2::在宅で継続する

ケアマネジャーや訪問看護師が、日常生活の中で対話を重ねる。

ステップ3:再入院時にフィードバック

在宅での対話内容を再入院の際に情報提供する。病院と在宅を何度も行き来しながら、本人の考えが深まっていく。

「北見市内で要介護認定を受けている人のうち、月に約180人が入院・退院を繰り返している。仮に月100人にACPのスイッチを押せたら、年間1,200人。5年で北見の要介護者高齢者のほとんどがACPを経験できる計算になる」

机上の理想論ではなく、現実的な数字に基づいた戦略。願いが現実的な数字になった瞬間でした。

議論の後半、実務的な提案が飛び出しました。

「入院時の看護基礎情報用紙って、ACPのこと聞いてないですよね?」 

「退院時のサマリーも、治療経過ばかりで、患者の思いは書いてない」 

「書式を変えちゃえば、みんな書かざるを得ない」

ACPという言葉を使わず、「療養意向調査」「価値観シート」として組み込む。ケアマネジャーが病院に渡す情報提供書にも、本人の意向を書く欄を追加する。

地道な草の根活動も大事だが、仕組みを変えれば文化が変わる──このシンプルな真理が、具体的な行動計画に結実しようとしていました。

「病棟の看護師さんが『ACP研修会』なんてタイトルで来るかな?」

参加者の一人が投げかけた疑問に、会場が笑いました。そして出た結論は─

「ACPの『A』の字も出さずに、情報共有の書式を見直す研修会にする」

「あなたのケアはこれで良かったのかと疑問に思ったことはありませんか?」 

「患者さんの思いをどう引き継いでいますか?」

キャッチコピーで興味を引き、実際に参加してみたら「あれ、これってACPだったんだ」と気づく仕掛け。ハードルを下げ、敷居をなくす。「騙す」のではなく、「自然に巻き込む」戦略です。

「医師の理解がないと、私たちがどんなに頑張っても進まない」 

「まだまだACPを知らない看護師もいる」

現場の声は厳しい現実を突きつけます。しかし同時に、希望もありました。

「一度治療を始めたらやめられない」という旧来の医療観から、「効果がなければ本人の意向に沿って中止する」という新しいガイドラインへの転換。医師会での勉強会、市民向けフォーラム(10月3日開催予定)、地域包括支援センターとの連携──多層的なアプローチが動き始めています。

日本総合研究所の「幸せな人生のしまい方白書」によると、人生の終わりに向き合う人は2タイプ。タツトリ型(立つ鳥跡を濁さず)」とノトナレ型(あとは野となれ山となれ)。

「全員を『タツトリ』にしようなんて、おこがましい」

参加者の一人が言い切りました。大切なのは、選択肢があること、決めたい人が決められること、そして決めない自由もあること。

ACPは決定の押しつけではなく、対話の継続です。北見の挑戦は、まだ始まったばかり。しかしこの日集まった多職種の「本音」が、確実に次の一歩を踏み出していました。

【後記】 

会議終盤、ある理学療法士が「このワーキングに参加して、ACPを説明できるようになりたい」と語りました。知識を得るためではなく、実践を通じて言葉を紡ぐ─その姿勢こそ、この取り組みの核心かもしれません。

9月末の研修会で、この物語がどう続くのか。続報をお楽しみに。

本記事は、2024年6月30日開催「第1回 地域でつなぐACP推進ワーキングチーム」の会議をもとに作成しました。

【市民公開講座のご案内】“ぽっちゃり”は大丈夫? ~体重から始まる心臓の危険信号~

ダイエットがなかなか続かない…そんな“ぽっちゃり”体型の方にこそ聞いてほしい、北見赤十字病院が今年も市民向け公開講座を開催します。肥満は心不全や心臓病の大きなリスク要因。専門医による講演と体験コーナーで、今日から始められる健康管理のヒントを学びましょう。

■ 開催概要
日時:2026年9月26日(土)13:00~14:15(12:30開場)
会場:北見赤十字病院 北館1階 多目的ホール「ミント」
北見市北6条東2丁目1番地/駐車場無料(第1駐車場をご利用ください)
参加費:無料・申し込み不要/定員100名
持ち物:上靴(ホール内は土足禁止。スリッパもご用意しています)

■ プログラム
13:00 Opening Remarks(座長:斎藤高彦/北見赤十字病院)
13:05~13:15 「心不全について(仮)」講師:小野太祐(循環器内科)
13:15~13:25 「心臓病について(仮)」講師:橋口仁喜(心臓血管外科)
13:30~14:00 「肥満症について(仮)」講師:大谷恵隆(内科・第一内科部長)
14:05~14:10 質疑応答
14:10~14:15 総括・終了

■ 体験&展示コーナー
– 血圧測定&自己検脈の指導
– 心不全手帳、心臓模型の展示
– 食品の塩分量表示、減塩レシピ紹介
– 塩分チェックシート、服薬指導コーナー
– ABI(動脈硬化指標)測定体験 など

■ お問い合わせ・主催
北見赤十字病院 企画課 Tel. 0157-24-3115
【主 催】北見赤十字病院・道立北見病院
【共 催】北海道薬剤師会北見支部
【後 援】北見市、北見医師会、北海道北見保健所、北見市医療・介護連携支援センター、北見在宅医療圏連携拠点センター、北海道栄養士会オホーツク支部

心臓にまつわる最新情報から、今日からできるセルフケアまで。気軽に参加して、健康維持の第一歩を踏み出しましょう!

韓国珍安(ジンアン)新聞に記事が掲載されました

去る6月、北見市が韓国ジンアン新聞の取材を受けました。
北見市の医療と介護の現状と課題について北見市医療・介護連携支援センターが受けたヒアリングが記事として紹介されました。

韓国では2024年より「医療・介護等地域社会統合支援に関する法律」が制定され、地域包括ケア(統合ドルボム)が国家的な普及段階に入っています。
韓国では、「医療・介護等地域社会統合支援に関する法律」が制定され、2026年4月より地域包括支援制度がスタートしました。は、
今回取材へいらした韓国ジンアン新聞のある全北特別自治道珍安(ジンアン)郡は人口過疎地域であり、人口減少と高齢化が深刻な状況だそうです。
65歳以上の高齢者比率が40%に達し、独居高齢者・障がい者・認知症高齢者の割合も高く、地域包括支援制度の策定と支援体制の構築が急務となっています。
今回の取材では、北見市における地域包括支援の実態、医療・福祉・行政・住民組織の包括的な支援体制と、その支援のなかで、住民が日常生活を支え合う地域づくりについてお話しました。

【学会レポート】連携を担う拠点は「仲人なし結婚」を目指せ 〜在宅医療連携を「文化」にするという発想〜

2026年7月4日に開催された「第8回 日本在宅医療連合学会大会」にて、シンポジウム26「『在宅医療に必要な連携を担う拠点』の現在地」で報告してきました。

今回は、その発表内容である『連携を担う拠点は「仲人なし結婚」を目指せ —在宅医療連携を文化にするという発想—』について報告内容をご紹介します。

 1. 拠点の現在地:令和8年への問いと北見のミッション

全国で整備が進んできた「在宅医療・介護連携拠点」ですが、皆さんの地域では単なる「事務局(連絡調整の窓口)」に留まってはいないでしょうか。

私たち「北見在宅医療圏連携拠点センター(北見市医療・介護連携支援センター)」がカバーするエリアは、北見市・美幌町・津別町・訓子府町・置戸町の1市4町。人口は約14.6万人ですが、医療・介護資源はもともと少なく、さらに減少傾向にあります。

このような地域で資源を増やすことはほぼ不可能です。だからこそ、私たちのミッションは単に連携の仕組みを「整える」ことではなく、現場が総出で自ら走り出す「自走の文化」を創ることへとシフトしています。

2. 「地域の実情に合わせて」という思考停止を乗り越える

よく使われる「地域の実情に合わせて」という行政言語。これは一見耳ざわりが良いですが、現状維持を肯定し、思考停止を招く罠(適応)になりかねません。

私たちは「地域」を単なる地理的境界ではなく、多職種や住民による「関係構造」だと再定義しました。資源が減少する中では、現状維持すら困難です。少ない人間でどう工夫していくか——私たちが取るべき戦略は、現状維持ではなく「関係性の再設計」なのです。

3. 現場が自発的に参画する「テーマ別チーム制」

関係性を再設計するための具体的な戦略として、当センターでは「テーマ別チーム制」を導入しています。

現場のプロが主体的に手を挙げて集う「北見圏域多職種連携・ケアネットワーク」を立ち上げ、現在は以下の4つのテーマでワーキングチームが自主的に課題解決に取り組んでいます。

①入退院情報共有

②ACP(アドバンス・ケア・プランニング)推進

③救急搬送適正化

④看取りの質調査

この仕組みの特徴は、関心や熱量に応じて「ライト・ミドル・コア」といったグラデーションを持たせ、複数参加も可能、のぞき見や出入りも自由という「心理的安全性」を重視している点です。「集まって協議して満足」を卒業し、地域で本当に使える取り組みを部活動のような感覚で検討しています。

4. ピックアップ活動:「地域でつなぐACP推進モデル事業」

今報告では、4つのチームの中から「地域でつなぐACP推進ワーキングチーム」の活動を紹介しました。

背景と問題意識

従来のACPは終末期に偏りがちで、一度きりの対話で終わってしまうケースが多く見られました。その結果、情報が分断され、患者さん自身の意思が深まらないという課題がありました。高齢患者さんは急性期入院を繰り返すことが多く、意思確認が場当たり的になったり、家族依存の決定になりがちです。

循環型プロセスへの転換

そこで私たちは、ACPを単発で終わらせず、入院・在宅・再入院というプロセスを通じて「対話を循環させる」モデルを構築しました。

【入院期(ステップ①)】:医療機関においてACPのスイッチを押し、患者さんの価値観を抽出する。

【在宅期(ステップ②)】:退院時情報をもとに、ケアマネジャーや訪問看護師などの多職種が地域で対話を継続・再評価する。

【再入院期(ステップ③)】:意思の再確認と更新を行い、次の診療方針へ反映させる。

医療機関と在宅が手を取り合い、一貫した意思決定プロセスを地域全体で支える体制を目指して、二次医療圏の看護管理者協議会の協力を得ながら取り組みます。

5. 拠点の真の役割は「バウンダリースパナー(境界越境者)」

連携拠点の真の役割は、医療・介護・福祉・行政の壁を溶かす「バウンダリースパナー(境界越境者)」であることです。

単なる調整役ではなく、現場の困難事例から地域の課題を「数え」て可視化し、それを地域の「共有知」に変える。そして、数字やデータだけでなく、現場の「語り(ナラティブ)」を通じて他人事を自分事化し、現場の主体性を引き出していくことが重要です。

6. 「仲人型」から「自然恋愛型」の連携へ

私たちが目指すのは、従来の「仲人型」から「自然恋愛型」の連携への変容です。

特徴仲人型(これまでの拠点)自然恋愛型(理想の姿)
関係性拠点が真ん中に立ち、主役となる現場の多職種が直接つながり、主役となる
文化連携が「ルール・義務」である連携が「前提・当たり前」になっている

拠点が間に入って「お見合い」をセッティングするのではなく、現場同士が直接出会い、自然に相談し合えるマインドを育むこと。拠点は裏方に徹し、目立たない黒子として場(器)を提供する存在へと変わる必要があります。

7. 拠点の進化プロセスと究極のゴール「拠点の消滅」

拠点の役割は、以下の4つの段階を経て進化していくと考えます。

第1世代:連携の窓口(情報提供・相談の入り口)

第2世代:連携の調整者(会議や研修によるネットワーク形成)

第3世代:連携文化の形成者(対話を通じて連携を日常に)

第4世代:地域医療の設計者(将来像から現在の体制を再設計)

ちなみに、私たちの北見の拠点は現在「第2世代から第3世代への移行期」にあります。目指すは第4世代であり、最終的には「拠点の消滅」という究極のゴールを見据えています。

連携が特別な仕組みや制度ではなく、地域の「暮らしの文化」として完全に溶け込んだとき、拠点は自ら消えていくべき装置です。拠点が介在しなくても、多職種が直接つながり、自律的に地域が回る「仲人なし結婚」の状態こそが、私たちの目指す未来です。

 結び:次世代に何を残すか

私たちは今、何を手放し、何を次世代に残すべきなのでしょうか。

手放すもの:拠点の目立ちすぎ、過剰な調整活動

残すもの:目立たぬ黒子としての設計機能、連携を“当たり前の文化”にする仕掛け

連携が「特別なこと」ではなく「当たり前の文化」になる社会。当センターはこれからも「陰の主役」として、地域が自律的に支え合える未来の設計に挑み続けます。

ACPを「特別なもの」から「日常の対話」へ ─ 北見発、地域でつなぐ新しい挑戦

2024年6月、北見市で興味深いワーキングチームが動き出しました。「地域でつなぐACP推進ワーキングチーム」。集まったのは看護師、理学療法士、言語聴覚士、ケアマネジャー、救急隊員、市議、そして医療従事者たち。多職種が一つのテーブルを囲み、率直に語り合った90分の記録から、北見の医療現場が直面する課題と、その突破口が見えてきました。

「ACPって何?」から始まる正直な対話

「正直に言って、ACPという単語を5月の研修会で初めて知りました」
元救急隊員の参加者が、会議冒頭で切り出したこの言葉が、この日の雰囲気を象徴していました。飾らない、率直な対話。それがこのワーキングチームの出発点です。

ACP(アドバンス・ケア・プランニング)──日本では「人生会議」とも呼ばれるこの概念。終末期医療の選択だけでなく、その人がどう生きたいかを話し合い、支える取り組みです。しかし現場では、「難しい」「ハードルが高い」「何から始めればいいかわからない」という声が溢れていました。

現場から見えた「3つの壁」

  1. 認識の壁:「特別な儀式」になってしまったACP
    「外来では小規模だったから相談しながら進められて、患者さんに聞いたらすごく喜んでくれた。でも病棟に移ったら、ほとんどやってなくて『難しい』と言うスタッフばかり」
    メンバーの所属する病院の看護師が語ったこの経験は、多くの参加者に共通していました。ACPを「核心を聞かなければいけない特別なもの」と捉えるあまり、踏み出せない。

一方で、別の理学療法士はこう気づきます。
「患者さんと20分リハビリしながら話していることが、実はACPにつながっていた。『道路を渡れるようになりたい』『孫の運動会に行きたい』──そういう生活目標を共有することでいい」

  1. 連携の壁:情報が「途切れる」システム
    「外来と病棟、そして地域への結びつきが全然できていない」「入院中に家族が語った思いを、次のリハビリ病院に引き継げていない」

ACPは一度決めたら終わりではなく、「揺れながら深まる」プロセス。しかし、現状では病院内ですら情報共有が不十分。ましてや在宅や施設との連携は、ほとんど機能していませんでした。

  1. 制度の壁:救急現場の「法的ジレンマ」
    「DNARは患者と病院と家族の約束事であって、救急隊との約束事ではない。法に触れる可能性があるので、どう扱っていいか迷う」
    年間7,500件の出動のうち、高齢者が65%、CPA(心肺停止)案件28件中、DNARの意思表示があったのは8人。しかし不搬送になったのはわずか1人──救急隊員の切実な声が、制度と現実のギャップを浮き彫りにしました。

突破口は「入院」にあった
ワーキングチーム発起人の一人が提案したのが、「地域連携型ACPモデル」という考え方です。

ステップ1:入院中にACPを始める
非日常的な環境だからこそ、患者も家族も「この先どうなる?」と考える。医療者が寄り添い、対話のスイッチを押す。

ステップ2:在宅で継続する
ケアマネジャーや訪問看護師が、日常生活の中で対話を重ねる。

ステップ3:再入院時にフィードバック
在宅での対話内容を病院に戻す。何度も行き来しながら、本人の考えが深まっていく。

「北見市内で要介護認定を受けている人のうち、月に約180人が入院・退院を繰り返している。仮に月100人にACPのスイッチを押せたら、年間1,200人。3年で北見の要介護高齢者の多くがACPを経験できる計算になる」
机上の理想論ではなく、現実的な数字に基づいた戦略。現実味を帯びてきました。

「書式を変える」という勇気
議論の後半、実務的な提案が飛び出しました。
「入院時の看護基礎情報用紙って、ACPのこと聞いてないですよね?」
「退院時のサマリーも、治療経過ばかりで、患者の想いは書いてない」
「書式を変えちゃえば、みんな書かざるを得ない」

ACPという言葉を使わず、「療養意向調査」「価値観シート」として組み込む。ケアマネジャーが病院に渡す情報提供書にも、本人の意向を書く欄を追加する。
地道な草の根活動も大事だが、仕組みを変えれば文化が変わる──このシンプルな真理が、具体的な行動計画に結実しようとしていました。

9月の研修会:「騙して」でも来てもらう
「病棟看護師が『ACP研修会』なんてタイトルで来るかな?」
参加者の一人が投げかけた疑問に、会場が笑いました。そして出た意見は──

「ACPの『A』の字も出さずに、情報共有の書式を見直す研修会にする」
「あなたのケアはこれで良かったのかと疑問に思ったことはありませんか?」
「患者さんの思いをどう引き継いでいますか?」

キャッチコピーで興味を引き、実際に参加してみたら「あれ、これってACPだったんだ」と気づく仕掛け。
ハードルを下げ、敷居をなくす。「騙す」のではなく、「自然に巻き込む」戦略です。

残された課題:医師の理解と市民への啓発
「医師の理解がないと、私たちがどんなに頑張っても崩される」
「看護部長ですらACPを知らない人がいる」

現場の声は厳しい現実を突きつけます。しかし同時に、希望もありました。

「一度治療を始めたらやめられない」という旧来の医療観から、「効果がなければ本人の意向に沿って中止する」という新しいガイドラインへの転換。
医師会での勉強会、市民向けフォーラム(10月3日開催予定)、地域包括支援センターとの連携──多層的なアプローチが動き始めています。

終わりに:「タツトリ」を増やすのではなく
日本総合研究所 SMBC京大スタジオ事務局の「幸せな人生のしまい方白書」によれば、人生の終わりに向き合う人は2タイプ。「タツトリ(立つ鳥跡を濁さず)型」と「ノトナレ(あとは野となれ山となれ)型」。
「全員を『タツトリ』にしようなんて、おこがましい」
参加者の一人が言い切りました。大切なのは、選択肢があること、決めたい人が決められること、そして決めない自由もあること。

ACPは決定の押しつけではなく、対話の継続です。北見の挑戦は、まだ始まったばかり。しかしこの日集まった多職種の「本音」が、確実に次の一歩を踏み出していました。

【編集後記】
会議終盤、ある理学療法士が「このワーキングに参加して、ACPを説明できるようになりたい」と語りました。知識を得るためではなく、実践を通じて言葉を紡ぐ──その姿勢こそ、北見モデルの核心かもしれません。

9月末の次回ミーティングで、この物語がどう続くのか。続報をお楽しみに。

*本記事は、2024年6月30日開催「第1回 地域でつなぐACP推進ワーキングチーム」の会議録音をもとに作成しました。