2026年7月4日に開催された「第8回 日本在宅医療連合学会大会」にて、シンポジウム26「『在宅医療に必要な連携を担う拠点』の現在地」で報告してきました。
今回は、その発表内容である『連携を担う拠点は「仲人なし結婚」を目指せ —在宅医療連携を文化にするという発想—』について報告内容をご紹介します。
1. 拠点の現在地:令和8年への問いと北見のミッション
全国で整備が進んできた「在宅医療・介護連携拠点」ですが、皆さんの地域では単なる「事務局(連絡調整の窓口)」に留まってはいないでしょうか。
私たち「北見在宅医療圏連携拠点センター(北見市医療・介護連携支援センター)」がカバーするエリアは、北見市・美幌町・津別町・訓子府町・置戸町の1市4町。人口は約14.6万人ですが、医療・介護資源はもともと少なく、さらに減少傾向にあります。
このような地域で資源を増やすことはほぼ不可能です。だからこそ、私たちのミッションは単に連携の仕組みを「整える」ことではなく、現場が総出で自ら走り出す「自走の文化」を創ることへとシフトしています。
2. 「地域の実情に合わせて」という思考停止を乗り越える
よく使われる「地域の実情に合わせて」という行政言語。これは一見耳ざわりが良いですが、現状維持を肯定し、思考停止を招く罠(適応)になりかねません。
私たちは「地域」を単なる地理的境界ではなく、多職種や住民による「関係構造」だと再定義しました。資源が減少する中では、現状維持すら困難です。少ない人間でどう工夫していくか——私たちが取るべき戦略は、現状維持ではなく「関係性の再設計」なのです。
3. 現場が自発的に参画する「テーマ別チーム制」
関係性を再設計するための具体的な戦略として、当センターでは「テーマ別チーム制」を導入しています。
現場のプロが主体的に手を挙げて集う「北見圏域多職種連携・ケアネットワーク」を立ち上げ、現在は以下の4つのテーマでワーキングチームが自主的に課題解決に取り組んでいます。
①入退院情報共有
②ACP(アドバンス・ケア・プランニング)推進
③救急搬送適正化
④看取りの質調査
この仕組みの特徴は、関心や熱量に応じて「ライト・ミドル・コア」といったグラデーションを持たせ、複数参加も可能、のぞき見や出入りも自由という「心理的安全性」を重視している点です。「集まって協議して満足」を卒業し、地域で本当に使える取り組みを部活動のような感覚で検討しています。
4. ピックアップ活動:「地域でつなぐACP推進モデル事業」

今報告では、4つのチームの中から「地域でつなぐACP推進ワーキングチーム」の活動を紹介しました。
背景と問題意識
従来のACPは終末期に偏りがちで、一度きりの対話で終わってしまうケースが多く見られました。その結果、情報が分断され、患者さん自身の意思が深まらないという課題がありました。高齢患者さんは急性期入院を繰り返すことが多く、意思確認が場当たり的になったり、家族依存の決定になりがちです。
循環型プロセスへの転換
そこで私たちは、ACPを単発で終わらせず、入院・在宅・再入院というプロセスを通じて「対話を循環させる」モデルを構築しました。
【入院期(ステップ①)】:医療機関においてACPのスイッチを押し、患者さんの価値観を抽出する。
【在宅期(ステップ②)】:退院時情報をもとに、ケアマネジャーや訪問看護師などの多職種が地域で対話を継続・再評価する。
【再入院期(ステップ③)】:意思の再確認と更新を行い、次の診療方針へ反映させる。
医療機関と在宅が手を取り合い、一貫した意思決定プロセスを地域全体で支える体制を目指して、二次医療圏の看護管理者協議会の協力を得ながら取り組みます。
5. 拠点の真の役割は「バウンダリースパナー(境界越境者)」
連携拠点の真の役割は、医療・介護・福祉・行政の壁を溶かす「バウンダリースパナー(境界越境者)」であることです。
単なる調整役ではなく、現場の困難事例から地域の課題を「数え」て可視化し、それを地域の「共有知」に変える。そして、数字やデータだけでなく、現場の「語り(ナラティブ)」を通じて他人事を自分事化し、現場の主体性を引き出していくことが重要です。
6. 「仲人型」から「自然恋愛型」の連携へ
私たちが目指すのは、従来の「仲人型」から「自然恋愛型」の連携への変容です。
| 特徴 | 仲人型(これまでの拠点) | 自然恋愛型(理想の姿) |
| 関係性 | 拠点が真ん中に立ち、主役となる | 現場の多職種が直接つながり、主役となる |
| 文化 | 連携が「ルール・義務」である | 連携が「前提・当たり前」になっている |
拠点が間に入って「お見合い」をセッティングするのではなく、現場同士が直接出会い、自然に相談し合えるマインドを育むこと。拠点は裏方に徹し、目立たない黒子として場(器)を提供する存在へと変わる必要があります。
7. 拠点の進化プロセスと究極のゴール「拠点の消滅」
拠点の役割は、以下の4つの段階を経て進化していくと考えます。
第1世代:連携の窓口(情報提供・相談の入り口)
第2世代:連携の調整者(会議や研修によるネットワーク形成)
第3世代:連携文化の形成者(対話を通じて連携を日常に)
第4世代:地域医療の設計者(将来像から現在の体制を再設計)
ちなみに、私たちの北見の拠点は現在「第2世代から第3世代への移行期」にあります。目指すは第4世代であり、最終的には「拠点の消滅」という究極のゴールを見据えています。
連携が特別な仕組みや制度ではなく、地域の「暮らしの文化」として完全に溶け込んだとき、拠点は自ら消えていくべき装置です。拠点が介在しなくても、多職種が直接つながり、自律的に地域が回る「仲人なし結婚」の状態こそが、私たちの目指す未来です。
結び:次世代に何を残すか
私たちは今、何を手放し、何を次世代に残すべきなのでしょうか。
手放すもの:拠点の目立ちすぎ、過剰な調整活動
残すもの:目立たぬ黒子としての設計機能、連携を“当たり前の文化”にする仕掛け
連携が「特別なこと」ではなく「当たり前の文化」になる社会。当センターはこれからも「陰の主役」として、地域が自律的に支え合える未来の設計に挑み続けます。

