在宅医療・介護連携コーディネートの進め方

介護新聞連載の第14回です。在宅医療・介護連携推進事業におけるコーディネーターの関わりその3、在宅医療・介護連携コーディネートの進め方です。
いよいよ連載も最終回です。今回は在宅医療・介護連携推進事業のコーディネーターとしてどのように事業を進めるとよいかについてお話しします。在宅医療・介護連携推進事業の手引きにも同様のことが記載されていますが、より現場感のある方法をご紹介します。コツは「感染者を増やせ」です。紹介する図の手順でご紹介します。

【地域の困りごとに気づく】
まずいわゆる地域の課題の発見と活動を選択する作業です。コーディネーターとして何に取り組んだらよいか分からないという方はほとんどいないでしょう。何かしらの「これは問題だなぁ」といった課題をお持ちだと思います。例えば「疾病の悪化で入退院を繰り返している人がいる」心不全、脱水や転倒を繰り返している人などです。また医療機関を退院した患者さん。自宅へ帰り「やれやれ」とばかりにソファーで横になってばかり。廃用症候群が進みADLが低下した際に、もきちんとリハビリして回復させてくれる場所少ないとか、認知症でBPSDが強くなった方をケアしてくれる場所がない(少ない)などがあるでしょう。さらに地方ではあるあるですが、都市部の病院へ入院すると地元へ帰ってこない方が一定数います。こういった「地域の困りごと」のことです。注意するべきは既にこの連載の第12回目「在宅医療・介護連携推進事業におけるコーディネーターの関わり」で述べましたが、「関係者の困りごと」にならぬように注意が必要です。さて、この気づきはご自分だけが感じているのでしょうか。他の方も感じているかどうか、是非話し合いをしてみて下さい。研修会や会議、アンケート調査を実施してもいいでしょう。地域の関係者が感じている困りごとを広く集めてみて下さい。

【困りごとがホントかどうかを確かめる】
次に感じた困りごとがホントかどうかを確かめます。関係する方へ聞き取りをしてもいいですし、調査を実施してもいいでしょう。前項の「地域の困りごと」から例を挙げましょう。心不全のステージ C (器質性心疾患あり、症状あり)の再入院患者数を調べる。そのほかでは、要介護認定の悪化者数とその方のリハビリサービスの有無を調べたり、都市部へ入院した患者さんが地元へ退院してきているかを調べるのがいいでしょう。つまり、コーディネーターの感覚や経験的な「地域の困りごと」がホントかどうかを確かめるのです。調べることで困りごとの程度を数字で表すことができますし、活動を進めていくなかで活動の成果としても評価、確認することができます。活動を測れるようにすることが活動を停滞させず、仲間の動機づけを維持する上で重要です。私は「Googleフォーム」をよく活用しています。メールで対象者へ調査用のURLを一斉送信できますし、回答も表計算のシートが自動的に集計できます。なにより無料なのが魅力です。調査を実施したら集計です。さて、困りごとはホントでしたでしょうか。調査前に立てた仮説の通りでなかったとしても大丈夫です。その調査で分かるのは困りごとの程度ですので、あまり深刻でない場合は焦らず取り組んでもいいテーマですので安心してください。集計後は分析を行い、困りごとの程度と困っている人の大まかな人数、つまり「量」を把握します。仲間でこの分析と対応方法を計画してみて下さい。この段階はまだまだPDCAの「P」の入口に過ぎません。

【困りごとを皆に知らせて感染させる】
さていよいよ取り組みの開始です。今回ご紹介する手順のうちの最も重要な段階です。調べた結果をまとめ、医療介護関係者が集まる場所を設定し、報告するのです。報告のあと「ほっておいていいのでしょうか」というメッセージを投げかけるとともに「このままだと大変」と参加者が思ってくれることが肝です。調査結果で具体的な数字や量が示せると参加者の納得度が高まります。報告のあとも重要です。事前に準備していた「とりあえずの解決策」を提案して参加者から意見を聞くのです。「こんな方法がありますが、他にもあるでしょうか是非教えてください」というスタンスです。課題が明確で、対象者の量が具体的ですので、参加者も解決方法の意見を多く教えてくれるでしょう。私の連携の師匠は「活動テーマを自分事として感じ、協力者をどのくらい増やせるかだ」とおっしゃっていました。つまり「活動に協力する感染者を増やす」のです。その後、協議の結果出された意見を「皆の意見が反映された解決策」として実施することを宣言します。コーディネーターは市町村等でその役割を与えられている方ですので宣言する「資格」があります。この時に単にコーディネーターの宣言に留まらず、市町村(行政)としても宣言してもらえると活動に公的な裏付けが与えられます。北見市は必ずそのようにしています。行政が宣言する意義は極めて高いのです。会の最後には「解決へ向けた取り組み」に協力してくれるメンバーを募ります。この場合、感染者(熱意のある人)が応募してきます。ところで、ある研修会で参加者から「熱意のない人をどう巻き込むか」という質問を頂きました。私の回答は、熱意のない人は機会を狙い「助けてもらう」です。このスタンスでゆっくりじわじわ多くの人を巻き込みます。この段階でやっとPDCAの「P」が終わります。

【皆の意見が反映された解決策を実施する】
ここまで来ると私の感覚では取り組みの8割が終わりです。タイトルの通り、あとは皆の意見が反映された解決策を粛々と実施します。前の例で考えてみましょう。心不全の悪化で入退院を繰り返している人がいるという課題に対する解決策の手順例です。まず、ケアマネジャーを対象に心不全患者の再入院数(割合)を調べます。要介護者しか対象にできませんが、手っ取り早く調べられます。次にその結果を基に、医療機関に対し再入院の原因、理由を確認する会議やヒアリングを実施してはどうでしょう。心不全患者の再入院防止は医療機関にとっても課題意識と関心の高い出来事です。きっと協力してくれるでしょう。その上で、ケアマネジャーに対し、再入院を防ぐコツを伝える研修会を医療機関と共同で企画、実施してはどうでしょうか。内容としては、医療関係者より心不全の病態、再入院原因の紹介や再入院防止のケアプランが上手なケアマネジャーの取り組みを紹介します。また、病態変化の際に相談できる医療機関の相談ルールを医療機関と協議し、ケアマネジャーへ周知するというのはどうでしょう。ここは地域の事情に応じたやり方がいろいろあります。重要なのは感染者を広げ、皆で何とかしなければならないといったムーブメントを作りだすコーディネーターの黒子としての活動です。この段階がPDCAの「D」にあたります。

【解決へ向けた取り組みをメンテンナスする】
さて、活動を進めていくと時間の経過とともに感染者も少しずつ熱い思いが沈静化していきます。これは避けられません。活動を維持していくためにはメンテナンスが必要です。まずしなければならないのが、定期的に「解決へ向けた取り組み」の経過を多くの関係者へ報告することです。本連載の第4回目「地域全体で取り組む入退院連絡ルールづくり」で紹介しましたが、北見市では入退院連絡調査を毎年実施して、連絡率の高低を確認するとともに入退院連絡のルール変更の必要性を協議しています。この活動例でいくと、心不全患者の再入院数(割合)でしょう。毎年の調査で、例えば単身の心不全患者さんの再入院率が極めて高かったとします。思い当たる原因や傾向について、ケアマネジャーや医療機関の担当者と協議するのはどうでしょう。こういった取り組みの修正や変更について意見を聞き、微調整を行う作業がメンテナンスにあたります。PDCAの「C」にあたります。前年度に比べ、再入院率はどのように変化したかなどをチェックすることで活動が進展している実感をメンバーに持って頂くことができます。

【解決へ向けた取り組みをPDCAにこじつける】
以上の繰り返しを実施していく訳ですが、コーディネーターを悩ますことがあります。そう在宅医療・介護連携推進事業の手引きではPDCAサイクルで取り組めという「指令」がありました。でもご安心ください。今回私が紹介した手順を踏めばすぐに書くことが可能です。但し、活動の開始時点ですべてのサイクルを記述することはできません。なぜならこの手順は仲間とともに協議しながら進めていくので、スタートの段階ではすべて見通した上では始められないのです。でも大丈夫です。最初の年は難しくても2年目の活動からはしっかり書くことができます。最初の年は「とりあえずの計画」でいいのです。かといってくれぐれも「とりあえず」とは書かないでくださいね。

【まとめ】
いかがでしたでしょうか。仲間を感染させ、協議しながら修正する。協議する過程は「仲間づくり」にもなっていくのです。活動計画の最初は「とりあえず」ですが、取り組んだ経過を後からでよいのでPDCAにあてはめてみると形になります。こじつけ上等です。翌年度からは恰好つきますのでご安心ください。まずは「仮のPlan」と「仮のDo」で始めてみましょう。取り組むうちに「仮」がなくなります。

最後にコーディネーターとしての私の実感をお伝えして14回の連載を終えたいと思います。在宅医療と介護のうち、優先度の高いのが医療よりも「介護」です。利用者の暮らしを維持するために生活サービスである介護サービスを維持することが最も重要です。他者の手助けを必要とする方が在宅で暮らせる方法を考えることが第一です。在宅介護(在宅生活者)のないところに在宅医療はありえないからです。各地で旺盛な医療介護連携が進むことを願います。短い期間でしたが、連載をお読み頂きありがとうございました。お問い合わせは当センターのホームページに記載のメールアドレスからお願いいたします。

北極星を眺めつつ電信柱を立てる

在宅医療・介護連携推進事業におけるコーディネーターの関わり、第2回目です。今回は「北極星を眺めつつ電信柱を立てる」です。先回りして結論を言うと、地域包括ケアの実現という北極星を眺めつつ、在宅看取りを希望する人数を把握するといった「電信柱」をいっぱい立てて活動を具体化しましょうというお話しです。

【北極星と電信柱】

私がコーディネーターとして大切にしている考え方があります。それは神田橋條治さんという方が「精神科診断面接のコツ(追補)」という著書で、夢(北極星)と目標(電信柱)の関係について書かれたものです。少し長い引用ですがお許しください。

在宅医療・介護連携推進事業にかかわらず、何かを計画して実行する活動における夢と目標についての関係が書かれています。私たちは地域包括ケアという決してたどり着くことのできない「北極星」へたどり着こうとして疲れ果てていないでしょうか。20階のビルに一気に駆け上がる活動計画を立てていないでしょうか。神田橋先生は「歩いているときの電信柱」でよいとおっしゃっています。

【電信柱の立て方】

コーディネーター活動のコツは地域課題を操作定義して目標を達成する記述にすることと前回お話ししました。これは「電信柱」のことです。今回はその電信柱を見える場所に順番に置いてみようという提案です。例として「本人の希望するところで看取りができる」で考えてみましょう。(図1)

まずは現在の在宅看取り数の把握が必要です。活動を進めるにあたっての出発点となります。自宅で亡くなっているのか、または特別養護老人ホームや自宅ではない在宅(サ高住)なのかを把握するでしょう。次に在宅看取りを希望していても叶わない方がいます。施設等での看取りであっても、医師の訪問診療が受けられないために、急変して救急車を要請していることなどがあるからです。そういった小さな数を把握する方法を順番に積み上げていくのです。その一方で在宅看取りを選択肢として持てるということを住民含め、医療・介護関係者が知ることが必要になります。いわば地域におけるACPの推進です。第9回と第10回目でお話ししましたが、特別養護老人ホーム入所時に認知症が進行して入所後に施設における意思決定支援が進まないという現状などがあり、入所前の在宅生活時からのACPの取り組みも進めることが必要です。電信柱は無数にとまでは言いませんが、柱の間隔を小さくすると数多く立てることが可能となります。どんな電信柱を立てるか、数は幾つ必要か、順序はどのようにするか、どのくらいの期間で隣町(次の段階)かなど、こういったことを地域の多くの協議体で検討していくのがいいでしょう。「北極星」という決してたどり着かない目的に対し、目の前にあって到達したことが分かるもの、この「電信柱」こそ私たちが取り組むものとなります。こんなイメージです。(図2)

【問いの立て方を「逆さま」にしてみる】

もう一つ紹介しましょう。多くのコーディネーターを悩ますのが「住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続ける」という命題です。問いを逆さまにすると「住み慣れた地域で暮らし続けられていない人はいるか」という表現になります。また「地域の目指すべき姿とは何か」という問いの場合は「最低限この地域でこれがないとまずいものは何か」になるでしょう。漠然とした課題を逆側から見て問い直すという作戦です。この問いを展開する例をご紹介しましょう。まず、この地域で最低限これがないとまずいものは何かの例として「医師の診療が受けられること」を考えてみましょう。本連載の第8回目で「医療介護連携における通院困難者の課題解決を考える」をお話ししましたが、まさにこの取り組みです。まずは、医師の診療が受けられない人はいるのか(対象)を把握します。ひっそり施設へ入所していたり、転居していたりする方がいるでしょう。次にどのくらいの人数がいるのかの量を把握します。また医師の診療が受けられない人はどこでどうやって暮らしているのかも気になります。恐らくご家族や知人の助けで「何とか通院」しているのでしょう。その上で、今後、同様の人は増えそうか (見込み、人口動態)や、どうやるとこれらが把握できるか(調査方法)が挙げられます。次に、暮らせていない人は実際にいるのかどうか(我々だけの印象なのかどうか)。さらに「ギリギリ暮らせている人」はどう暮らしているか実例を調べたうえで、どのくらいの人数がいるのかの量を調査します。その上で、暮らせていない理由(資源量や構造)は何か。どうやるとこのことが把握できるか(調査方法)などが考えられます。

いかがでしょうか。要は課題をそのまま眺めるのではなく、手にとって四方八方眺めたり、こねくり回してみるのです。コーディネーターは課題を「誰よりも斜めに見る力」が求められていますが、こういった方法も是非取り入れてみて下さい。

参考文献

『精神科診断面接のコツ(追補)』 神田橋 條治著 岩崎学術出版社、1984年(追補版1994年)

ケア目標の共有が医療・介護連携の出発点

介護新聞連載の第1回です。
この度北海道医療新聞社が発行する「介護新聞」の連載をすることになりました。
忘備録として、このブログでも紹介したいと思います。

北見市で在宅医療・介護連携推進事業を受託している関と申します。このコーナーでは医療介護連携のコーディネーターとして活動して感じたことや取り組みを紹介していきます。第1回目は「ケア目標の共有が医療・介護連携の出発点」です。連携には協力し合う目的が不可欠であり、目的達成のために互いに協力しあうことが必要だというお話しをします。

【地域包括ケアとは現状をなるべく維持していくこと】
私が在宅医療・介護連携推進事業を担当する以前から「連携の師匠」と呼ぶ方がいます。彼が言いました。「地域包括ケアとは、今とは違う何か新しいパラダイスや桃源郷を目指すイメージで語られているがそうではない。現状をなんとかして維持していくことだ。」目からウロコが落ちました。地域包括ケアの目標は障害や介護を必要とする状態になっても住み慣れた地域で暮らし続けられること。地域包括ケアが実現したあかつきの状態とは、医療機関とケアマネジャーが密接に協力し合う。サービス調整に困ることがない。必要なリハビリテーションが受けられる。多職種間の連携が進み、介護状態が悪くなりにくい地域が誕生する。こんな風に私は思っていました。今とは違う地域の様子です。しかし現実的に考えると、これは極めて実現可能性の低い出来事であることに気づきます。夢見るという意味でパラダイスです。生産年齢人口の減少と85才以上の高齢者の増加で、現状ですら不足している介護サービスは益々不足し、対象者は増加します。地域包括ケアとは、まだ見ぬパラダイスという夢を目指すのではなく、今あるサービス量をなんとか維持していく工夫と知恵を現実的に考え抜くということでした。

【軽度者の介護は住民に任せ、中重度者の介護は介護職が担う】
この師匠を昨年北見市へお呼びし、地域支援事業の担当者を対象に研修会を開催しました。テーマは「総合事業の深い活用法-ケアマネ・在宅介護職不足の軽減のために-」です。研修会では大阪府のとある市の総合事業を紹介して頂きました。とりわけ住民主体の体操教室や生活支援サービスを推進する取り組みです。その市の狙いはこうでした。「軽度者(要支援から要介護2まで)の介護は住民に任せ、中重度者の介護はプロである介護職が担う。その分だけ不足する介護職でも多くの中重度者を介護する。」という戦略です。人口12万人の大阪のその市では、住民主体の体操教室は実に250ヶ所以上あり、毎週開催され、そのすべてが住民により主体的に運営されていました。元気な住民は認定こそ受けていないものの要介護(と思われる)住民を体操教室へ連れ出し、その傍らゴミ出しも手伝うなどの住民主体の生活支援サービスが盛んに行われています。しかも移送は自治体の補助のある住民ボランティアの完全送迎付きです。軽度者の介護は住民に任せる。まさに「今あるサービス量をなんとか維持していく工夫と知恵」でした。在宅の介護職、ケアマネジャー不足を解消する方法は二つあります。彼らを増やすという方法と、増えなくても、少ない職員で何とかやりくりするという方法です。現実的には後者の方法しかありませんが、前者の解決(介護職の増員)にこだわっている地域が多いのではないでしょうか。要介護認定率は多くの市町で20%前後であることを考えると、残りの80%の元気な高齢者を活用する知恵は、決してコロンブスの卵ではありません。将来の地域課題をリアルに受け止め、取り組む決断の賜物だといえるでしょう。

【要支援者の予後予測を基にした介護予防ケアプラン支援】
北見市の要介護認定更新結果から驚くべきことが分かりました。令和4年度に要介護認定を更新した方のうち、要支援者の約54%が以前の認定結果から悪化していたのです。疾病の悪化、配偶者の死別、居住環境の変化など原因は多岐に渡るでしょう。その原因の一つは身体機能を維持するために必要な活動量が確保されず、廃用症候群が進行したのではないかというのが私の推察です。要支援認定された方は認定を受けた現在の身体状態でケアマネジャーの前に現れます。多くのケアマネジャーは認定以前の過去の生活の様子を把握します。しかし「将来どの程度まで認定前の元気な身体状態に戻れるのか。そのためにどの程度の活動量が必要か、またどんな運動方法が適切か。」といった未来の達成可能なADLを予測し、その方法を考えるのは困難です。訪問リハビリを利用しない前提でケアマネジャーが気軽に理学療法士などのリハビリテーション職へ相談する機会はほぼありません。また札幌市を中心とした都市部ではリハビリテーション職が潤沢に働いていますが、人口1万人以下の地方の町村ではあまり働いていません。介護予防といいながら従来型の通所介護へ通っているのが現状ではないでしょうか。その結果、充分な活動量が確保されず、改善の伸びしろの大きい要支援者が重度化してしまうことは問題です。リハビリ専門職の大いなる活用が望まれるとともに、ケアプラン立案の際にケアマネジャーが相談できる仕組みが求められます。北見市では令和4年度に北海道理学療法士会道東支部の協力を得て、「リハビリテーション前置による重度化予防ケアプラン支援事業(略称:リハ前置ケアプラン支援事業)」(図1、図2)を実施しました。

これはケアマネジャーと理学療法士が書面を通じ、利用者の予後予測と機能訓練の方法と評価をアセスメントの前段階(リハビリ前置)で助言を受ける仕組みです。活動の結果、ケアマネジャーから「自信をもって利用者へ説明できた」、「利用者の身体機能改善を利用者とともに確認することができた」などの意見が聞かれました。最も我々が注目した結果は「利用者との信頼関係が高まった」というケアマネジャーからの意見です。ケアマネジャーが利用者とともに同じ目標を立て、モニタリングを行い、利用者とともに結果を評価するという過程を通じ、より両者の信頼関係を高めることが確認されました。

【目的や目標を共有しない「連携」はない】
やっと今回のテーマにたどり着きました。連携とは「二人以上の主体が同じ目的を持ち、互いに協力し合うこと(広辞苑)」です。相手の組織を訪れて「これから連携しましょう」と言う際の連携は「協力しましょう」という意味の「連係」であり「連携」とは似て異なります(連係プレーなどとも言いますね)。つまり連携を実行する際は必ず協力し合う目的が存在します。認知症があり、一人暮らしは難しい利用者がいたとします。利用者本人の強い希望が「施設に入らず出来るだけ長く自宅で暮らしたい」場合、これがこの利用者の支援の共通目的となります。長く自宅で暮らすことを維持するため、多職種間で互いに何をどう行い、どんな協力を実施するかというケアやリハビリテーションの方法と役割を明確にしていく作業が「連携」と言えるでしょう。ここでいう目標とはケア目標に他なりません。在宅で生活する要介護者のケア目標の主たる柱がケアマネジャーの立案するケアプランです。これを補強していくケア計画が通所介護計画や、訪問看護計画と言えるでしょう。そこで重要となるのがケア目標です。しかしこのケア目標の立案が実はまた一苦労です。この目標設定があいまいだと連携もあやふやなものになります。次回はこのケア目標立案のための取り組みについてご紹介します。

ケア目標立案のための取り組みは徹底した本人との面接から始まる

今回は対人支援における「本人の意向」は重視されるべきだが、実はあまり尊重されていないどころか、支援者の都合の隠れ蓑になっているかもしれないという話しをします。これには「尊厳の重視」を捉え直すべきだろうという話しです。

【本人の意向と社会資源】

令和4年度に北見市では㈱日本総合研究所の協力を得て、「適切なケアマネジメント手法実践研修」を実施しました。この研修を開催して気づいたことがあります。それは「本人の暮らしに対する意向の確認」がすべての出発点になるということでした。例えば脳卒中の後遺症で片麻痺となり独力での歩行、入浴や排せつが困難になった単身の高齢男性がいるとします。ケアマネジャーの皆さんはどのようなことをご本人に尋ねるでしょうか。移動の方法、浴室の環境や居間からトイレまでの距離でしょうか。環境の整備は無用な事故や残存能力の活用という点でもちろん大切です。医療機関においてはどうでしょうか。自宅退院できるのか、もしくは転院か、といったところでしょう。「暮らしに対する意向」とは、当のご自身は今現在、置かれた状況をどのように捉え、ご自身の暮らしや生き方を今後どのように考えているかです。まずはここから出発しなければなりません。これが適切なケアマネジメント手法の考えの中心に置かれていると感じたのです。私は長らく医療ソーシャルワーカーとして医療機関で主に脳卒中の患者さんの支援に携わりました。当時若かった私は早期に転院できる医療機関を探すこと、自宅へ帰る際はデイサービスの申し込みを市役所へ申請することなどが支援だと考えていました(介護保険施行前は役所へ行政処分として申請をしていたのです)。つまりご本人の意向をとりあえずは尋ねるものの、どうすれば自宅への退院が可能になるか、退院後の生活が安全になるかといった退院のための環境や条件の整備に奔走していました。退院支援とはつまり社会資源をどう整えるか、そういうものだと信じて疑わなかったのです。

【本人の意向を隠れ(みの)にした周りの都合】

私たちは毎日、何を着るか、どこへ行くか(大概の皆さんは仕事場ですね)や、何を食べるかなど、小さな意思決定をしています。これらはあまりにも小さいので、決定している自覚すら私たちにはありません。しかし、脳卒中になり入院した場合、元通りの身体に回復するのだろうか、いつ退院できるのだろうかなど不安が頭をもたげます。そんな入院生活を送る中、医療機関から問われるのは退院先です。急性期の医療機関は入院期間が限られていますから、入院治療が終了したら退院です。しかしリハビリテーションを要したり、家屋の改修が必要な場合があります。急性期の病床から、回復期リハビリテーション病棟などへの転棟(院内での病棟移動)や、他の医療機関へ転院をすることになります。こういった「退院後の意向」は本人の希望は実は建前で、多くは医療機関の都合で決まります。しかも入院治療の終了と同時期に行われるため、入院直後のかなり早い時期から「退院後の意向」の決定を迫られます。無事に自宅退院したあとも、リハビリテーションは必要か、どこの事業所を選ぶか、何曜日なら事業所が利用できるかなどをケアマネジャーとともに決定していくこととなります。こういった転帰先の決定や利用するサービス内容などは一見「本人の意向」として扱われますがこれは「本人の意向」というよりは「周りの都合」です。つまり介護を必要とする病気になったあと、患者さんや利用者は他者によって決められた暮らし方や生き方を説得されたり、納得させられたりという暮らしを送ることになります。もう個別性どころの話しではありません。患者さんや利用者にとっては「本人の意向を隠れ蓑にした周りの都合による意思決定」とすら言えるでしょう。

【本人の意向、意思決定と尊厳】

支援とは周りの都合の調整ではなく本人に対する支援であり、この核となるものが本人の意向や意思決定であることを踏まえれば支援者は「本人はどのように感じているか、考えているか」を患者さんや利用者へ尋ねなければなりません。どこへ退院するか、どのサービスを利用するかは、本人の意向や意思という目標を叶えるための方法に過ぎません。そこで重要となるのが適切なケアマネジメント手法の3つの基本方針の1つである「尊厳を重視した意思決定の支援」だと思ったのです。単なる意思決定ではなく、「尊厳を重視する」というところがポイントです。ちなみに「適切なケアマネジメント手法」の基本方針にはこの他に「これまでの生活の尊重と継続の支援」と「家族等への支援」があります(図1)。

それでは「尊厳を重視した意思決定の支援」における「尊厳」とは何でしょうか。哲学者の清水哲郎氏は「尊厳をもって死に到るまで生きること」というレポートで尊厳の3つの種類を紹介しながらこのように記しています。

と言っています。つまり、他者の介護が必要となった患者さんや利用者自身は自らを価値ある、有意義な存在と感じているかどうか。「もう俺の人生はおしまいだ」などおっしゃった時、「そうですか分かりました」とは私たちは言いませんよね。再びご自身を価値ある存在と感じられる関わりを試みるでしょう。「尊厳の重視」とは本人の主観にあり、我々は感度を上げて観察する必要があります。単に利用者の意思を尊いものとして大切に扱う我々支援者側の心情を言及しているのではありません。

【ケア目標立案のための取り組みは徹底した本人との面接から始まる】

今回のテーマは「ケア目標立案のための取り組みは徹底した本人との面接から始まる」でした。ここまでお読みいただければお分かりになったと思います。初めは入院患者として、その後は要介護者として生きていく患者さんや利用者は自尊感情が低下している場合があります。そんな時に支援者という役割を持つ私たちこそが「尊厳を重視する」態度が最も求められると思うのです。しかし尊厳を重視して、本人の意向を聴くことはとても困難な作業です。なぜなら、本人自身も自分の意向を充分に分かっている訳ではないからです。この難しい面接への解決のヒントがありました。令和5年3月に北見地域介護支援専門員連絡協議会が主催した「対人援助職のための面接力向上研修会」で講師の松山真先生(立教大学コミュニティ福祉学部)は、F.P.バイステックの考えを次のように紹介されました。「コミュニケーションは三通りある。①情報や知識をやりとりする。②感情のやりとりをする。③知識と感情の双方のやりとりをする。質のよいコミュニケーションとは、相手が何を(知識か感情か)求めているか読み取ることである。」つまり、私たちは本人の意向という意思決定された結果(知識)のみに着目するのではなく、意思決定に至る患者さんや利用者の「感情」のやり取りを面接によってしっかり捉えられるかどうかが肝であるということでした。ケア目標とはそういった私たち支援者の専門的な価値意識と技術によって利用者とともに作り上げるものなのでしょう。

入退院支援加算に加え「退院後支援加算」が地域包括ケアを進める

介護新聞連載の第3回目です。地域包括ケアの推進のためには医療と介護の連携が必要です。そのためには医療機関で現在実施されている「入退院支援加算」に加え、退院後の介護サービス利用者等の支援のため、医療機関に「退院後支援加算」を創設してはどうかという私案を紹介します。ちなみに退院後支援加算とは筆者の造語で、退院後の外来患者に対する生活支援を医療機関で実施した場合に診療報酬が医療機関へ支払われるというイメージです。

【入退院支援加算の功罪】
現行の「入退院支援加算」は急性期病院におけるスムーズな患者の安心した退院を目的として、平成20年度の診療報酬で創設された「退院調整加算」に始まります。その後平成28年度には早期からの退院支援と関係機関との平時からの連携推進ため入退院支援加算へと名称と要件が改められました。これにより多くの急性期や回復期の病院で入退院支援部門が誕生しました。多くの退院支援に関わる看護師や社会福祉士が雇用され、急性期病院の退院支援の充実という成果をもたらしました。退院困難な患者の早期抽出、患者・家族との面談や他医療機関やケアマネジャーらとの顔の見える連携体制の構築などを通じ、これまで一部の患者に対してのみ実施されてきた退院支援が多くの入院患者を対象にすることとなったのです。これにより急性期病院から回復期への医療機関間の転院のパイプが太くなるとともに、退院後に介護を必要とする方に対して、ケアマネジャーらと共同し退院支援が多く取り組まれるようになりました。しかしその反面、医療機関における入退院支援部門が扱う対象患者は、ほぼ入院患者に限定されてしまいました。その結果、退院後の患者に対する医療機関からの手当は繁忙する外来で対応することになったのです。つまり、医療機関における外来患者の支援部門は消失してしまったのです。もちろん現在も退院後の相談は可能です。しかし多くの医療機関では部門外の業務として整理されている場合が多いと感じます。余談ですが、この頃より医療機関における社会福祉士の求人数は激増し、現在も慢性的な人員不足が続いています。

【ケアマネジメントにおける多職種連携】
退院後、入院患者は利用者へと立場を変え、介護保険制度によってケアマネジャーが支援を担当します。例を挙げましょう。退院時は屋内外を歩いていたある高齢者が、居間で転倒し腰を打ちました。医療機関を受診したところ幸い骨折はなく打撲と診断され医師から「安静にして様子をみましょう」と言われました。日課の散歩や庭の植木の水やりを控えていたら何やら張り合いが薄れ、あまり食事も進まなくなりました。これではいけないと思っていたら歯ぐきが痛み出し、食べるのが億劫になりました。特段熱が出た訳でも体調不良という訳でもないので誰にも相談せず様子を見ているうちに屋外ではふらつくようになりました。さて、ケアマネジャーが月に1度のモニタリングで利用者宅を訪れます。ふと先月と何か様子がおかしい。医師からは「様子を見るように」と言われたのみで何か治療を要する訳ではありません。歯ぐきが痛むというが何も食べられない訳ではありません。歯科受診するかどうかは本人の気持ち次第です。このままでは廃用症候群が徐々に進行していくとケアマネジャーは考えます。本人に訪問リハビリや歯科受診を勧めるけれども「まだ大丈夫」と言われてしまいました。「自己決定」という語がケアマネジャーの頭をよぎります。


ケアマネジメントには多職種連携が重要と言われます。しかし多職種へ相談するためには利用者本人の「承諾」が前提です。私は利用者から承諾を得るためのこの努力を、ケアマネジャーにのみ課している仕組みが多職種連携の進展を阻む構造上、制度上の問題だと思っています。紹介した事例でいえば「医師からは安静と言われているが、どのような動きであれば痛みが出ず、活動量が維持できるか」や「屋外のふらつきの原因は口腔トラブルに起因する低栄養なのか。またそう判断するにはどんなことを利用者へ尋ねたらよいか、また次回受診時に医師へどのように尋ねたらよいか」など、利用者の承諾を得るための「あとひと押し」できる専門的知識や助言を多職種から得られる仕組みが必要です。いや私は今現在も相談できるし、そうすれば良いのではとおっしゃるケアマネジャーの方もいるかも知れません。しかし多くのケアマネジャーがこういう相談相手を持っている訳ではありません。また一般的に訪問リハビリテーションや訪問看護などのサービスを利用するかどうかを判断する前の段階で他の専門職種へこういった相談を持ち掛けたり、助言を得ることを介護保険制度は想定していません。サービスを担当しない専門職がサービス担当者会議に参加することはありません。

【退院後支援加算の有用性】
そこで私が提案するのが「退院後支援加算」です。これは前述のケアマネジャーが利用者へ「あとひと押し」できる専門的知識や助言を得られる仕組みを介護報酬ではなく、診療報酬上で評価してはどうかというものです。こう言うと、入退院支援加算は退院のためのものだから診療報酬での手当が妥当だが、退院後はケアマネジャーの活動として介護報酬で手当するべきだろうという意見も出そうです。ところが令和5年6月に開催された中央社会保険医療協議会で、令和6年度の同時報酬改定に向けた意見交換会のこれまでの意見がまとめられています。今後の重点的な課題を踏まえた医療・介護連携として注目するべき記述がありました。医療においてはより「生活」に配慮した質の高い医療を、介護においてはより「医療」の視点を含めたケアマネジメントが重要だと記述されています。特に医療において「生活」に配慮した質の高い医療の視点が足りておらず、生活機能の情報収集が少ないのではないか、という指摘がありました。つまりこの意見で言うところの「配慮」とはケアマネジャーが「あとひと押し」できる専門的知識や助言を得られる機会を医療機関側で担保することではないだろうかと思ったのです。在宅生活を延伸させる最も重要な柱がケアマネジャーの立案するケアプランです。このケアプランが医療機関における多職種の知識や助言により、疾病予防と重度化予防に役立たせることが、地域包括ケア推進の要件の一つになるでしょう。(図)


むろん急性期病院のすべてにこの「退院後支援加算」が必要というつもりはありません。同上の意見交換会でも「要介護の高齢者に対する急性期医療は、介護保険施設の医師や地域包括ケア病棟が中心的に担い、急性期一般病棟は急性期医療に重点化することで、限られた医療資源を有効活用すべきである。」という意見もあることから、地域包括ケア病棟など回復期機能を持つ病院に対してのみの評価でもよいでしょう。また名称も退院後支援加算ではなく「生活体制維持加算」でもいいかもしれません。

【ケアマネジャーにとっての、かかりつけ多職種チーム】
そして医療機関は入院機能のみならず、在宅における利用者の心身機能の維持や、ケアマネジャー等からの相談を受け、当該医療機関の外来を受診した上でケアマネジャーの抱える相談に医療機関に勤務する多職種から回答・助言する役割や機能があったらどうでしょうか。これにより予防的な対処をケアマネジメントの段階で実施することにより、無用な入院を回避し在宅生活の延伸をもたらす役割をケアマネジャーとともに当該医療機関の多職種で実施することができそうです。地域包括ケア病棟などを持つ医療機関をいわば、かかりつけ医ならぬ、ケアマネジャーにとっての「かかりつけ多職種チーム」としての機能を持たせ、心身機能の低下と入院を防止する水際作戦の役割を発揮できるのではないでしょうか。

通所介護が重度化防止のカギとなる

【通所介護は在宅サービスの要】
北見市には通所介護(デイサービス)が21事業所、通所リハビリテーション(デイケア)が6事業所、地域密着型通所介護が27事業所と計54ヶ所の通所サービス事業所があります。令和4年度の利用者数は延べ27,592人となり、要介護者が自宅で暮らし続けるために必要不可欠な在宅サービスの柱です。その昔私が病院へ勤務していた時、人口4万人のその地域ではデイサービスが2つしかなく、空き待ち期間が3年とも4年とも言われていました。退院後の患者さんの生活を維持していくためには退院後に機能訓練、入浴や介護者の負担軽減として通所サービスが大変有効です。そこで私は勤務先の病院へ掛け合い、通所リハビリテーション(当時は老人デイケア)の施設を作りました。モットーは「遠くて重い方から」。つまり、介護が重度で遠方のいわゆる「待機期間が長く、送迎に時間を要し、かつ対応に手間のかかる」方から利用していただきました。開設後の半年ほどの期間でしたが私はこのデイケアで働きました。汗まみれになりながら入浴後の着替えを行い、利用者から「ありがとう」と感謝され、送迎車でご自宅へお送りした際、出迎えたご家族の笑顔は今でも忘れられません。

【通所介護へ通うけど身体機能が低下する】
しかしこれから介護職員の減少とともに要介護認定者の増加でどういった現象が通所サービスで起こるでしょうか。私が想像するに、このままでは軽度者の減少と重度者の増加が起こると思います。北見市で実施した前述の通所サービス意見交換会で講師を務めた方がこんな事例を紹介してくださいました。通所介護へ通っているけれど身体機能は低下している利用者がいました。通所介護では自分の席に座り、マッサージチェアまで歩行器で1時間に1~2回繰り返し移動しており、一見活動量は保たれていると思っていました。しかしよく観察すると、立ち上がりは何かに掴まり、椅子に座る際は勢いよくドスンと座ることが多かった。つまり、一見活動していても上肢の機能だけ活用し、下肢の筋力を使う機会が少なくなっていることに気づいたそうです。そこで下肢の筋力増強と共に動作の改善も訓練として実施したところ、低下していた歩行能力は改善したという事例でした。この方のように独力で移動していても筋力低下が発生する場合があります。この事業所は理学療法士が勤務していたこともありプログラムの修正ができた訳ですが、専門職が不在の通所サービスではなかなか問題点を見つけることは困難です。一所懸命に介護しても適切な運動量と方法が確保できなければ重度化する場合があるのです。

【利用者の「納得」に重点を置いた機能訓練】
とすると機能訓練のプログラムや身体機能の評価をこまめに実施すればいいように思います。しかしここでも落とし穴があります。機能訓練は将来したいことである「目的」を達成する「方法」なのですが、訓練すること自体が目的になってしまう場合があります。それでも何もしない方よりはいいでしょう。大切なのは、訓練を継続することに対し利用者自身の「納得」への関わりに注力することです。令和4年10月に開催された「第2回北見市医療と介護の実践報告会」において報告されたデイサービスの活動が注目に値します。週1回から2回の限定された通所のなかで機能訓練をしても効果が低いため、改善を図るため通所利用日以外でも自主的な運動を実施してもらうことに取り組んだ実践報告でした。そのデイサービスでは、生活の目標や日常の課題を利用者から聴取し、その原因や訓練によって得られる成果の説明を心がけました。その上で家庭で実践できる自主練習を指導し、利用日には自宅での進捗を聴取し、身体の変化を利用者へフィードバックしました。こういった日々の取り組みに本人自身が納得できるよう配慮した結果、バランス評価を行った23名中で14名の利用者が向上、7名が機能維持されたというものです。利用者が自身の暮らし方をスタッフとやり取りを行い、何のために機能訓練をするかについて利用者本人が充分納得できた結果、通所日以外でも自主的な運動が継続して実施された好事例でした。 (図参照)

【ケアプラン目標と通所介護計画の目標の連動を】
通所サービス意見交換会で実施したディスカッションで意外な課題が見つかりました。通所介護のスタッフは、生活の目標や日常の課題を通所介護計画に反映していますが、ケアプランに記載されているケースが少ないということでした。また参加者からは、機能訓練を実施しているがその人に合った通所介護計画になっているかどうか不安である、という意見が聞かれました。さらには意見交換会で講師を務めたケアマネジャーは「ケアマネジャーは通所事業所からの情報を上手くケアプランに反映する事が出来ていない事が多いのではないか。ケアマネ主導で一方的にケアプランを立てているのではないだろうか。」という報告もありました。前述の利用者の「納得」に重点を置くという視点から考えると、将来の生活の意向とその方法がケアプランで立案されていることをしっかり反映させて通所介護計画を作成するべきですが、そうでない現状があるということが分かったのです。

【本人の納得が利用者の機能改善や自立支援につながる】
今回のテーマである「通所介護が重度化防止のカギとなる」のポイントが見えてきたでしょうか。利用者の自立支援と介護の重度化を防止するには、①本人の納得に基づいた適切な機能訓練を実施するのみならず通所利用日以外の自主訓練や通所時のメンテナンスが重要である。②ケアプランが通所介護計画へ連動できるよう、ケアプランでは生活の目標や日常の課題を記載し、通所介護事業所とケアマネジャーの情報交換を積極的に行う。この二つを実施していくことにより、現在の通所介護がさらに利用者の機能改善や自立支援につながることになるのではと考えています。このほかにも通所リハビリテーションの卒業先として通所介護が活用されることも大切です。さらには通所介護の卒業先として、地域における住民主体の体操教室やサロンなどへの移行が求められます。いずれにしても介護職員不足が拡大するなかで、少ない介護サービスで多くの利用者に対応する知恵と工夫が求められます。通所サービス事業所のみならず、行政や地域全体で通所サービスを維持し続ける対策が急務といえるでしょう。

地域全体で取り組む入退院連絡ルールづくり

【退院前の連絡が医療機関から無い原因はケアマネジャーの「連絡なし」だった】

私たちが入退院時の連絡ルールに取り組み始めた平成21年。ケアマネジャーの皆さんは当時、退院前に医療機関から事前に連絡が来ないことを嘆いていました。医療機関から連絡がないため退院後すぐに介護サービスの調整ができず、一週間後に連絡を受けたケアマネジャーが自宅へ急いで訪問すると入院前より機能低下している利用者を発見することがありました。病院と在宅の連携強化を感じた出来事です。そこで私たちはまず実態を把握するため、居宅介護支援事業所のケアマネジャーを対象に退院前に医療機関から連絡が来たかどうかの調査を行いました。併せて担当する利用者が入院した際、在宅の状況を医療機関へ連絡しているかどうかもケアマネジャーへ尋ねました。回答率は94%で、多くのケアマネジャーが協力してくれました。調査の結果、退院前に医療機関からケアマネジャーへ連絡が来た割合は46%でした。しかし我々をもっと驚かせたのは利用者が入院した際、医療機関へ連絡をしていたケアマネジャーは41%しかいなかったのです。入院時に連絡していないのに退院前に連絡を寄こせとは道理が立ちません。医療機関へ連絡が欲しいと要望する前にケアマネジャー側の関わりも問われた結果となりました。

【医療機関はちゃんと退院前連絡をしている「つもり」だった】

私たちは作戦の練り直しを迫られます。まずは医療機関の退院支援担当者とケアマネジャーが一同に集まり、調査結果を説明し、現状を共有する会議を開催しました。北見市の特徴は、この会議の参集を呼びかけたのが「北見市(行政)」だったことです。これについては後述します。さて、会議では調査結果を報告しました。ケアマネジャー側は医療機関側に対し、入院時には医療機関へ連絡するので退院前に連絡が欲しい旨を伝えました。医療機関側は理解を示しつつもその回答は驚きでした。一つ目は「担当ケアマネジャーが誰か分からない」です。入院患者に担当ケアマネジャーを尋ねても回答できる患者さんがあまりいない。回答があってもその方は担当のホームヘルパーだったなど、連絡をしたくても分からなかったのです。二つ目は「ケアマネジャーはなぜ担当利用者の入院に気づかないのか」です。医療機関とケアマネジャーの間の溝が見えた瞬間です。互いに怠けている訳ではありません。しっかり仕事をしているのに互いの存在を知る仕組みがないことに気付かされたのです。この対処は協議を進めたのち「介護保険証にケアマネジャーの名刺を入れておく」、「医療機関側からケアマネジャーへ連絡をもらう」ことになりました。めでたし、めでたし。いえいえここで終わりません。医療機関からの次の発言でまたまた驚かされました。それは「私たちはきちんと退院前にケアマネジャーへ連絡をしている」と認識していたことでした。確かに介護が必要な患者さんにはしっかり連絡は来ていました。しかし前述の調査結果では要支援1から要介護1くらいまでの軽度の患者さんは見落されていたのです。でも医療機関側は「ちゃんと連絡している」と考えていました。これでは連絡が来ないはずです。現在、多くの医療機関は診療報酬で「入退院支援加算」を届け出ており、そんな発言は聞かれません。しかしその当時この加算はなく、医療機関では入院患者が介護保険サービスを受けているかどうかを確認するルールがなかったのです。

【ケアマネジャーと医療機関との協議の繰り返し】

こうして医療機関とケアマネジャーが互いに見落としている様々な溝が明らかとなりました。ここからがコーディネーター役となった北見市(行政)の出番です。両者が一同に会する会議を開催するのみならず、互いの言い分をしっかり聞くため医療機関のみ、ケアマネジャーのみを対象とした会議を繰り返し、課題解決の知恵と工夫を協議しました。例えばケアマネジャー側の会議では、前述した医療機関の意見である「担当ケアマネジャーが誰か分からない」に対する解決方法として「介護保険証にケアマネジャーの名刺を入れておく」や、「退院前に欲しい情報は何か」、「退院の何日前に連絡が欲しいか」などを検討しました。医療機関側の会議では「入院時に欲しい在宅生活の情報」、「利用者が入院したことは、医療機関からケアマネジャーへ連絡が欲しいと言っているが可能か」などを協議しました。互いが直接同じ会議の場で意見交換することも可能ですが、コーディネーターである北見市はあえて別々の会議の場を設定し、それぞれの言い分をしっかり聴取し、連携協議を行った上で両者合同の会議に臨んだのです。連携協議とは、互いの言い分を吐き出させ、相互に相手の言いにくいことを受け入れ、妥協点を見つける作業のことです。連携の当事者に対し、連携調整者であるコーディネーターの最も重要な役割はこの連携協議にあるでしょう。課題解決へ向けたこの協議を何度も繰り返し、ようやく平成28年の北見市における入退院連絡の地域ルールにこぎ着けたのでした。

【継続のためのメンテナンスと退院前ギリギリ調整】

せっかく出来上がったルールも時間とともに風化します。また制度変化による新しいルールへの変更も必要です。北見市では平成28年にルールを開始してから「入退院連絡率調査」を毎年実施しています。互いの連絡率も少しずつ高まり、令和5年度の退院前連絡率は過去最高の90%を超えるまでになりました(図1)。

また、毎年の調査では退院前連絡率を医療機関ごとに集計しています。残念なことに医療機関別の結果を公表するにはまだ至っていません。しかし、退院前連絡率も多くの医療機関で高まっていることから公開できる日も近いでしょう。こうして継続して調査を実施し、結果を共有することが定期的なルール維持への動機づけとメンテナンスになります。現在の課題は医療機関がケアマネジャーへ退院前連絡をする日が徐々に短くなり、退院直前になっていることです。(図2)

ケアマネジャーは退院5日位前の連絡を希望していますが、実際の連絡日は退院2~3日前となっています。医療機関の平均在院日数の短縮化により、退院日が直前に決まることが原因と思われます。これを解決していくには医療機関内で医師による退院の決定に先立ち、そろそろ退院が近そうだと退院支援担当者が判断した際はケアマネジャーへ連絡してもよいという医療機関内のルールを作ることが求められます。つまり医師が退院を決定する前に、コメディカルが「そろそろ退院しそうだからケアマネジャーへ連絡しておこう」という判断を医療機関や医師が許可することです。これは医療機関ごとの機能や文化、組織体制に大きく影響されます。ケアマネジャーが連絡を受けても退院前ギリギリだとすぐに介護サービスが調整できませんので何とかしなければならない課題です。今後はこの問題を「退院前ギリギリ調整」と名付け、患者さんや利用者にとって忌避すべきことであることを今後、医療機関とケアマネジャーとの連携協議の会議の場で共有していきたいと思っています。

在宅医療と救急医療の取り組みでACPを推進する

介護新聞連載の7回目です。ACP(アドバンス・ケア・プランニング)は在宅の看取りなどを推進する上で馴染みがある方も多いでしょう。でも救急医療との関係については聞いたことがある方は少ないかもしれません。今回は北見市で令和4年度から取り組んでいる在宅医療・救急医療に関する活動を紹介します。先に結論をお伝えすると、ACPを推進する方法の一つとして在宅医療と救急医療の連携課題の解決が役に立つのではないかというお話しです。

【在宅医療と救急医療の課題】
具体的な例をご紹介しましょう。まず在宅医療の現場の例です。かかりつけ医の緊急往診で要請した救急搬送が中止され、本人の意思であった在宅死が叶った事例です。重度の肺疾患を抱えていた男性がいました。日ごろから妻に「最期は自宅で」と話し、その情報もかかりつけ医療機関でもカルテで共有していました。ある日心肺停止となった際、家族は慌てて119番してしまいました。救急隊からの連絡で事態を知ったかかりつけ医師は、男性の希望を救急隊員へ伝えるとともに自宅へ駆けつけ、家族と一緒に最期を看取りました。通常、最期は自宅を希望していても救急要請があった際、こうした医師による対応ができない場合は原則、救急隊は救命処置を行い医療機関へ搬送しなければなりません。本人の希望が叶えられない場合があるのです。さらに救急隊は救急処置を望まない心肺停止の高齢者患者さんに対し蘇生術を実施しながら医療機関へ搬送した後、救急処置を望まない意思であったことが判明したこともあるようです。次に救急医療現場の例です。ある救命救急センターに4名の患者さんが搬入されていました。皆さん90才以上です。このうち3名が高齢者施設からの搬送でした。患者さん4名全員が急変時と心停止時の対応を話し合ったことがなかったため、救急医は緊急で家族と話し合いを行いました。その結果、看取り1名、入院2名、揉めた事例が1名だったそうです。担当医師は、高齢者施設では急変時や心肺停止時の対応は話し合っていないのだろうか。また救急の場面の初対面同士で、こんなに大切な決断を短時間で下して良いのだろうかと感じていました。こういったことが、救急医療の現場で起きています。

【在宅医療・救急医療ワーキングチーム会議の発足と活動】
北見市では令和4年度に厚生労働省の事業である「在宅医療・救急医療連携セミナー」を開催しました。その結果ACP(アドバンス・ケア・プランニング)の普及啓発、意思決定された情報の共有方法づくり、心肺蘇生を望まない救急要請があった場合の対応ルールの検討が課題として挙がり、継続した会議体の設置が必要とされました。この課題解決を図るため、令和5年度の北見市における在宅医療・介護連携推進事業として在宅医療・救急医療ワーキングチーム会議が設置されました。令和5年9月に開催された第1回目の会議では本会議の目的を「本人の意思決定支援(ACP)はもとより、その意思が実現できる環境の整備へ向け、多機関での協議を行い、本人の意思に沿った在宅医療と救急医療の実現を目指す」としました。本趣旨にご同意頂いた参画団体は別図の通りです。(図1)

会議設置の目的は抽象的ですが、活動する目標は具体的でなければなりません。目標の設定にあたっては札幌市で先行して同様の取り組みがされており、これに携わっていらっしゃる静明館診療所の大友宣先生が作成された「高齢者施設における在宅医療と救急医療コンセンサスシート(案)」を取り入れさせていただきました。ご使用をご許可頂いた大友先生に感謝申し上げます。会議で定めた活動目標をご紹介します。

  1. 高齢者が希望する医療を受けることができる。
  2. 高齢者が希望する最期の場所で過ごすことができる。
  3. 高齢者の家族が、医療的対応に納得することができる。
  4. 高齢者施設、救急隊、救急医療、在宅医療、ケアマネジャーなどすべての関係者が疲弊しない持続可能な仕組みができる。

地域は違っても、在宅医療と救急医療に関する取り組みはおそらく同じものではないでしょうか。またこの活動目標を設定する上で大切にしたいことがあります。こういった課題に対する解決は、対象である高齢者の医療・ケアに対する意思や希望の実現であり、当事者にとっての目標であるということを忘れないようにするというものです。医療機関の受け入れがなく救急搬送に難渋する。救急医療現場で治療方針が立たないなど、ともすると活動目標の方向性が医療や介護の我々関係者の業務上の課題解決のためになりがちです。活動は結果として関係者の業務上の課題解決にもつながるのですが、あくまで目的は当事者である高齢者の医療・ケアに関する意思の実現であり、現場の課題解決はその過程で生まれてくる副次的なものでなければなりません。

    【在宅医療と救急医療の取り組みでACPを推進する】
    さて、今回の結論である、ACPを推進する方法の一つとして在宅医療と救急医療の連携課題の解決がなぜ役に立つのでしょうか。まず北見市の在宅医療・救急医療ワーキングチーム会議では、前述したことが北見市でも実際あるのかどうかについて実態調査を行いました。調査対象は北見市内の救急告示病院や在宅療養支援診療所、消防組合、地域包括支援センター、居宅介護支援事業所、高齢者施設です(合計189ヶ所、回収率59.3%)。以下の調査結果の主なものをご紹介します。

    1. 回答のあった救急告示等病院すべてに延命と救命の判断に迷う高齢者や、蘇生を希望しないDNAR傷病者の救急搬送があった。
    2. 消防組合では消防署、出張所等のすべてから救急処置を望まない高齢者からの救急要請を経験し、かつ病院選定の時間が長くなり、現場活動時間が延長していると回答した。
    3. 回答したケアマネジャーのうち、死期が迫っていない患者や利用者へACPを実施していたのは8.7%で、状況により実施すると回答したのは66%であった。
    4. 高齢者施設において入所者の急変時に備えた事前指示書を作成していない、と回答した事業所が56.6%であった。(図2)


    こういった課題から言えることは病状の急変で救急要請した場合、本人の意思があったとしても、医師の緊急往診が無い場合、救急隊は救命処置を行い医療機関へ搬送しなければなりません。「もしもの時」を決めていたとしてもこうですから決めていなかった場合、ご本人はもとよりご家族も辛い思いをしかねません。調査では死期が迫っていない患者や利用者へACPを実施していたケアマネジャーはごく少数でした。救急医療の現場で起きている事例を多くの関係者や住民が知ることで「我が事」として感じることでケアマネジャーや高齢者施設がACPに取り組む大きな動機付けになるのではないでしょうか。生死の問題は誰かに急かされてするものではありません。しかし自分の知らないところで起きている出来事を知ることにより、少しずつですが市民が自分事としてACPが地域へ浸透していくことになると思うのです。

      医療介護連携における通院困難者の課題解決を考える

      在宅医療・介護連携推進事業の取り組みの中で、独力で通院が困難という通院困難者の存在が見えてきました。通院の際にバス停までが遠い。耳が遠く診察で医師や看護師の声が聞き取れない。ヘルパー不足でサービス調整が整わずケアマネジャーが同行受診をしているなど、通院という住民の診療機会の確保のためにはどんな解決ができるかについて書いてみます。ちなみに「独力で通院が困難」とは、本人の独力のみでの通院は困難で、介助や付き添いを必要とする状態としています。

      【通院困難者予備軍の存在が明らかに】

      令和3年12月、北見市が居宅ケアマネジャーを対象に「移動に関する調査」を実施しました(回収率82.4%)。調査の結果、居宅ケアマネジャーが担当する利用者数4,122人に対し、現在【通院困難者予備軍の存在が明らかに】
      は独力で通院している826人のうち、今後3年以内に独力での通院が困難になるとケアマネジャーが予想した利用者は625人いました。このうち要支援者(総合事業対象者を含む)の割合は530人で84.8%でした(図1)。


      その理由は「身体機能の低下」が圧倒的に多く83.9%で、次いで「認知機能の低下」は14.7%でした。
      このままでは通院に支障をきたす方の大幅な増加が見込まれます。医療と介護が連携して取り組む「日常の療養支援」の課題の一つに「住民が医師の診療を受け続けられる」ことがあります。まさに一丁目一番地の課題です。ケアマネジャー側の予想とはいえ、通院困難が想定される高齢者がこんなに多いとは驚きでした。さて、通院困難者というと、現に通院が困難な方を思い浮かべます。しかし今回お話ししたいのは、前述した通り今現在、独力で通院している方のことです。将来、潜在的に通院困難という課題を抱える可能性のある方です。これを私は「通院困難予備者」と呼び、介護サービスや家族・友人の助力により通院している「ギリギリ通院者」とは区別しています。私が分類した例をご紹介します。 (図2)


      通院困難者の課題解決は他の団体も取り組んでいます。北海道医療ソーシャルワーカー協会では令和4年度に「通院困難患者支援専門部会」を発足し活動を開始しました。札幌市を除く道内の市町村では、患者が希望しても訪問診療の医療資源が少ない場合や訪問介護などのサービスが不足しており、通院が困難になる課題が今後顕在化する可能性があります。課題が深刻になる前に講じるべき行政及び現場レベルでの対策や工夫を提案することを活動目的として活動しています。北海道介護支援専門員協会の協力を得て全道の調査も実施しました。活動の様子がNHK北海道の番組でも紹介されましたので、ご存じの方も多いかもしれません。

      【減少する訪問診療医と減少する介護サービス】
      令和2年12月に当センターが実施した「訪問診療及び通院困難に関する調査」では、訪問診療利用者数は191人/月で要介護認定者(n=5,021)の4%でした。このうち、自宅居住者が71人(30%)で、それ以外に居住系サービスへ入居する者の合計は152人(65%)でした。有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅や高齢者下宿です。圧倒的に「自宅以外の在宅」で訪問診療を受けている方が多いという結果になりました。(図3)


      通院が困難な場合、医師による訪問診療が医療保険制度上受けられます。しかし、医師が不足する地域にあっては患者さんが希望しても訪問できる医師のマンパワーは限られます。訪問診療が受けられなければ日常の健康管理ができず、住み慣れた自宅などを離れなければなりません。北見では訪問診療を実施する医療機関は5つありますが飽和状態で、平成27年度以降では減少しています。今後増加する通院困難者に対応することはほぼ不可能と言えるでしょう。(図4)


      訪問診療の需要は増えても対応できる医師が限られる一方で、身体機能の低下があっても通院し続けるためにはホームヘルプサービスなど介護サービスの確保が必要です。しかしこれも減少傾向です。北見地域介護支援専門員連絡協議会と北見市地域包括支援センター連絡協議会の協力を得て実施した「介護職不足緊急調査(令和5年10月実施)」では、ヘルパー不足等により事業所側の都合(調整に時間を要する、指定曜日が変更となった、事業所を変更した)でホームヘルプサービスの調整が困難になったとケアマネジャーが回答した割合は46.3%でした。特にケアマネジャー歴が10年以上の方はケアマネジャー歴5年未満の方より、サービス調整に以前との調整困難を感じていました。ケアマネジャー歴5年未満の方は調整が困難と感じる割合が10年以上の方より低い結果は、5年前には既に現在のサービス不足の状況が発生していた可能性があります。(図5)

      【行政サービスの限界をカバーする住民主体のまちづくり】
      今回のテーマは通院困難者の課題解決です。これまでの調査などを紹介してきました。介護職員不足が本格化する2040年を見据え、解決策について考えてみましょう。今回の冒頭で紹介した「移動に関する調査(北見市)」では、既に通院困難の方がどのように通院しているかについても調査しました。回答を紹介すると、知人が毎月病院まで送迎をしてくれる、近所の人が買い物代行や友人の車で一緒に買い物に出かけているなど、ご家族以外に近隣住民によって通院が可能となっているという回答がありました。ご近所の助け合いです。北見市における要介護認定率はおおよそ20%ですから、残り80%はいわゆる「元気な高齢者」です。「通院困難予備者」が「ギリギリ通院者」になっても、この80%の方々の協力を得て、いかに支援できる仕組みを地域で作ることができるかがこの課題に対する対策になるでしょう。この連載の第1回目にもご紹介しましたが、私の連携の師匠はこう主張しています。「軽度者(要支援から要介護2くらいまで)の介護は住民に任せ、中重度者の介護はプロである介護職が担う。その分だけ不足する介護職でも多くの中重度者を介護する。」という戦略です。今まで地域住民による生活支援サービスはフォーマルな介護サービスの隙間を埋めるという補助的な位置付けでしたが、いよいよ軽度者サービスの中心とならざるを得ない時代が到来するでしょう。行政が用意する公的サービスだけではとても賄えません。私たち医療・介護関係者が認識するべきは、こういった互助に基づく生活支援サービスの潜在的な地域住民への期待と、住民の持つ底力に対する信頼だと思います。私たちが住民へ相談する前から「協力は難しい」と考えていてはとうてい実現できません。さらに最も重要なことは、行政自身が「住民の主体的な活動を活用しなければ介護難民が大量発生する」と認識し、住民へ説明する「決断」をすることなのでしょう。

      在宅医療・介護連携推進事業における認知症の人への扱い

      介護新聞連載の第8回目です。包括的支援事業における在宅医療・介護連携推進事業は、生活支援体制整備事業や、認知症施策推進事業と並列に位置づけられています。このうち認知症施策推進事業は医療と関わりはあるものの、在宅医療・介護連携推進事業とは別に独立したものとしてオレンジカフェや認知症サポーター養成、認知症初期集中支援チームなどの取り組みを行っています。今回はこれからの人口減少の時代を迎えるにあたり、そろそろバラバラの事業ではなく、統合化へ向けた動き方をしていった方が良いのではないかという話しをします。

      【在宅医療・介護連携に「認知症」が入らない違和感】
      令和元年に北見市から在宅医療・介護連携推進事業を受託した際、気になっていた事を恐る恐る市の担当者(当時)へ聞きました。「医療介護連携では、認知症の人は対象にしなくて良いのでしょうか。」市の担当者はこう答えました。「認知症施策推進事業は別の事業なので実施しなくてよいです。」とても安心したことを覚えています。認知症はあまりにも課題が大きすぎて、新米コーディネーターの私の手には負えないと考えていたからです。北見市では7つある地域包括支援センターが認知症施策推進事業も受託しており、そちらで事業は実施されていました。しかし年を追うごとにこの安心は「違和感」へと変化していきました。
      ある日地域ケア会議に参加した時のことです。認知機能の低下した単身高齢者の生活をどう支えるかというテーマでした。夜になると不安が募り、ひと晩で救急搬送を十何回と要請する方です。救急隊、担当ケアマネジャーや受け入れ医療機関の医師も疲労困憊していました。幾つかの作戦は実施するものの上手くいかず、結果その方は精神科の病院へ入院することとなりました。私は「重り」を心の中に抱えます。救急搬送を要請したのは周りを困らせたかった訳ではなく単に不安だった。しかし、関わりのなかでこの不安を解消することができなかった。在宅生活を支えるサービスのみならず、医療機関や医療関係者も加えて何か手を打てたのではないかという「重り」でした。さらにこんな出来事もありました。高齢者施設でのACPを推進しようと特別養護老人ホームの方を対象に会議を実施した時のことです。施設では急変時の医療処置に関する事前指示書の取り組みはしていたもののACPへの取り組みはあまり進んでいませんでした。理由を問うと「対象者は入所時に既に認知症が進行しており、本人の意思確認ができる状態ではない」とのことでした。認知機能が低下する前の本人の意思確認と、軽度の時期からの意思決定支援の必要性を感じました。ちなみに北見市における令和4年度の新規要介護認定における原因疾患の第一位は「認知症(16.1%)」です。ちなみに脳卒中は第4位で9.9%です。新規要介護者の多くが認知症の人という現実を受け止めた時、私のなかで認知症は医療・介護連携の重要なテーマの一つとなりました。

      【在宅医療・認知症における連携課題は「つなぐ」から「支える」資源づくりへのシフトへ】
      令和5年の4月より北見市では地域包括支援センターとともに、「地域支援事業担当者意見交換会」を計7回開催しました。地域支援事業のうち、包括的支援事業は地域包括支援センターの運営、在宅医療・介護連携推進事業や生活支援体制整備事業など多くの事業がありますが、事業の縦割りの弊害を感じていたからです。そこで将来の地域支援事業の取り組みについて、特に実効性のある包括的支援事業の具体化を各事業の縦割りを超え、かつ有機的に組み合わせた効果と効率のよい具体的な事業方法について検討しようと考えたのです。検討にあたり、認知症関連で現状の課題を調査したところ図のようなご意見を頂きました。(図1)


      認知症サポーター養成など「つなぐ」人の養成や、チームオレンジなどの環境整備も重要ですが、そもそも当事者に対する直接的な施策が不足していることに気が付いたのです。気軽に外出できる場がなかったり、サポーターも高齢化していたり、当事者が発言できる機会がないなど、認知症における連携課題はサービスへ「つなぐ」役割より当事者を直接支える「資源づくり」が急務だと考えました。例えば以下のようなことが考えられます。
       プログラムの内容の更新やチームオレンジの活動を「場づくり」とともに「当事者を支える資源づくり」として支援する仕組みづくり。
       「認知症者に必要なプログラムとは何か」を考えるセミナーの企画。
       そもそもの話で「認知症キャラバンメイトや認知症サポーターの目的は何か」を考えたり、認知症対策(初期支援チーム等)のゴールは単にサービスへつなぐこと(デイサービス利用)でよいのかどうかを考え直す。
       重要なのが「認知症と診断された当事者の心の悩みはどこで解決するのか」といった「支える」資源づくりなのではないだろうか。
      オレンジカフェで認知症の先輩に悩みを打ち明け、話を聞く場など「当事者を支える資源」を作る必要がありそうです。こういった目的の実現に医療機関や地域包括支援センター、介護支援専門員や関係機関が協力し、支援者や医療介護関係者向けではなく、当事者を中心に据えた認知症施策を豊かにしていく活動が必要と思われます。

      【地域包括ケアシステムの構築状況の点検ツールの活用】
      やはり、認知症の人に対して、対応する施策である認知症施策推進事業のみでは限界があります。他の事業も含め協力していくことの必要性は容易に理解できますが、しかし立ちはだかるのが、「事業の縦割り」です。事業の立ち上げや整備を優先するあまり、本来の「何のために」、「誰のために」行っている事業なのかが不明確なまま、事業の立上げや整備そのものが単純作業と化して担当職員や地域住民が疲弊していたり、各担当者の人事異動等により事業を開始した当時の理念やビジョンが伝承されず整備が進まない状況があります。そこで私たちが活用したのが、㈱日本総合研究所が発表した「地域包括ケアシステム~効果的な施策を展開するための考え方の点検ツール(参考資料参照)」です。このツールは、各市町村が、地域包括ケアシステムが目指す「目標」の達成に向け、介護・福祉分野やそれ以外の資源を活用した施策という「手段」が、十分な効果をあげているかを、できる限り客観的な指標を参照しつつ、自己点検する枠組みと視点を提供するツールです。特に施策レベルの点検の視点については、地域包括ケアシステムの構築で示されている5分野(医療・介護・介護予防・住まい・生活支援)の体制整備を複数の事業でどのように補い合い効果をもたらしているかを測ることができます。(図2)

      全6回の意見交換会では8つの施策レベルの視点のうち、特に4つに限定して意見交換を実施しました。このタイトルと内容をご紹介します。(図3)


      参加者した担当者からは以下の意見を頂きました。「生活支援コーディネーターが時間をかけ、各地でプレゼンするなどして情報を把握しているので、認知症支援推進員もその上に加わり活動している取り組みも知ることができた。」や「今できているところまでをきちんと評価することで事業担当者の気持ちが楽になった。いままでしておらず苦しかった。」縦割り事業の苦しみと統合化に期待する意見が聞かれました。
      さらに「活動はしているものの、地域包括支援センターが主体となってしまっていた。少しずつ住民、ボランティアへお返しして、住民主体に取り組みに変えて行かなければならない。」や「地域の目指す姿を表現すると、この表現を住民へ説明する際にそのまま伝えやすくなると感じた。」こと。また「オレンジカフェでは、自分たちの企画したものではなく、住民が既に自主的に実施しているものがあり、これをどう把握するか、支援をどうするかというスタンスでもよいと感じた。つまりなんでもすべて我々がゼロから組み立てなくても良いのだと理解した。」など当事者中心に活動軸を転換すべきてあるという意見が聞かれました。

      【在宅医療・介護連携推進事業における認知症の人への扱い】
      ここまでお読みいただければご理解いただけたと思います。在宅医療・介護連携推進事業をはじめとする包括的支援事業は「地域包括ケア推進」という共通の目的があります。そのために国は様々な施策を検討し、市町村で実施するよう求めています。国から降りてきた事業を単なる「指令書」として理解するのではなく、我々の街の当事者のために、どのように協力して活用するかという視点が重要です。在宅医療と介護において認知症の人は欠かせない対象者の一人として活動を続けていきたいと思います。

      参考資料
      地域包括ケアシステムの構築状況の見える化に向けた調査研究事業
      株式会社日本総合研究所 経営コラム
      2022年04月08日 齊木大、山崎香織、辻本まりえ
      https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=102435