「内田樹×東畑開人 「我」を消し去る? それとも全開にする? 武道とカウンセリングは正反対」という対談記事を読みました。
この対談では、「成熟」とは何かを、武道家の内田樹氏と心理療法家の東畑開人氏が、それぞれの実践から考察しています。中心となるテーマは、自我(我)をどう扱うかについてでした。
在宅医療・介護連携を進めるうえで、システムや体制づくりは欠かせません。会議体を整え、役割を明確にし、情報共有の仕組みをつくる。こうした「形」を整えることは、連携の土台になります。
しかし、実践を重ねる中で、私は次第にこう感じるようになりました。
頭で理解しているだけでは、連携は動かない。組織や専門職の身体が、自然に対話し協働できるようになるためには、文化や風土の変化が必要なのではないか。
この気づきには、内田樹さんと東畑開人さんの対談に登場する、武道と心理療法の考え方が重なります。
内田さんは、武道の修行を「我執を去って自在を得る」営みと語ります。自我を強く押し出し、勝敗や優劣にとらわれるのではなく、固定化した思考や行動の型から少しずつ離れていく。身体に権限を委ね、相手と競うのではなく、ともに稽古する。
ただし、自我を完全に消すことはできません。重要なのは、自我を無理に消そうとすることではなく、少しずつ距離を取ること。「自我を消そう」と力むと、その努力をしている自分に執着してしまうため、かえって自我を強化してしまうとのことでした。
一方、東畑さんは心理療法について、「我をフルレンジで生きていく」ことだと語ります。嫉妬、愛情、憎しみ、怒り、敗北感などを、未熟なものとして抑え込むのではなく、自分の一部として認めます。誰かを愛するなら愛している自分を認め、憎んでいるなら憎しみも含めて受け止める。
心理療法では、自我を消すのではなく、自分の中にあるさまざまな感情や欲望を安全に経験し、それらを自分の人生の一部として統合していく。その意味で、武道が「我を去る」道だとすれば、心理療法は「我を十分に経験する」道だと言えます。自分の「我」を安全に表現できることが、自由につながるという考え方です。
両者の方法は正反対に見えます。しかし、共通しているのは、頭で自分を管理しきろうとするのではなく、自分や他者との関係を変化させていく点です。
在宅医療・介護連携も同じではないでしょうか。
連携を制度やルールだけで動かそうとすると、「正しい手順」や「理想的なすべき役割分担」に人を合わせることになります。しかし、現場には、それぞれの専門職としての誇り、不安、葛藤、過去の経験があります。病院と地域、医療と介護、専門職と住民の間には、簡単には言葉にならない距離や緊張もあります。
そこに必要なのは、関係者が自分たちの立場や感情を持ち寄り、相手の事情を知り、少しずつ納得できる接点を見つけていく過程です。つまり、連携とは単に「つなぐ」ことではなく、対話を通じて、協働できる文化や風土を育てることなのだと思います。
私自身、当初は連携を促進するために、ルールや体制を整備することが重要だと考えていました。しかし、実践を続ける中で、ルールだけでは連携は機能せず、それを支える「納得」と「対話」が不可欠であることを実感しました。
対話は、個人と個人の間だけに成立するものではありません。病院と地域、行政と現場、専門職集団と専門職集団の間にも成立します。その対話が、相互理解と信頼を育て、結果として協働を可能にします。
連携コーディネーターの役割も、「連携の仕組みをつくる人」から、「集団間の対話を調整し、協働を育む人」へと変化してきました。
在宅医療推進に必要なのは、制度や会議体を整えることだけではありません。関係者が、相手を変えようとする前に相手を知り、自分たちの前提を問い直し、対話を重ねる。その経験が組織に蓄積されることで、連携が「頑張って実行するもの」から「自然に生まれるもの」へと変わっていくのではないでしょうか。
これからの在宅医療・介護連携には、頭でっかちな仕組みづくりだけでなく、身体感覚を伴った文化や風土の変化が求められます。
連携をつくるから、対話を育むへ。
この変化は、私自身の実践の変遷であると同時に、地域全体が協働のあり方を学び直していくプロセスでもあります。
令和8年10月3日(土)に開催される「第5回 北見市医療と介護の実践報告会」では、北見地域における実践を振り返りながら、連携コーディネーターとしての私の価値観がどのように変化してきたのか、そして対話を基盤にした協働をどのように育んでいくのかを報告します。
参加申込と抄録は上のリンクよりお入りください。
内田樹×東畑開人 「我」を消し去る? それとも全開にする? 武道とカウンセリングは正反対
『街場の成熟論』文庫化対談「成熟とは何か」
文春オンライン 2026/09/02
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