ニュースレター臨時号 「フュータイル・ケアと人生会議」― 後悔しない最期のために ―

過日に開催した標記研修会「フュータイル・ケアと人生会議」の講演要約とアンケート調査結果をまとめました。

 講演概要
第4回 北見在宅圏域多職種連携・ケアネットワーク研修会において、橋本政明先生より「フュータイル・ケア(無益な延命治療)」と「人生会議(ACP)」についての講演が行われました。本講演の核心は、「死に向かうケアではなく、“今をどう良く生きるか”を支える対話」という視点にあります。

 なぜ日本では「寝たきり」が多いのか
講演では、日本の終末期医療の特徴として「命の量を優先する文化」が指摘されました。それは、延命治療が優先されやすい。QOLより「生かすこと」が重視される。その結果、寝たきり高齢者が増加する。その一方で実際の意識調査では、
延命は医療の優先順位として最も低いという結果も示されています。つまり、現場と価値観のズレが存在していました。

 フュータイル・ケアとは何か
フュータイル・ケアとは、「回復の見込みがないにも関わらず続けられる医療(無益な治療)」です。これが起こる背景として、家族の不安・罪悪感、医師からの説明不足。家族の「何かしてあげたい」という思いがあります。結果として、本人にとって最善でない医療が継続されてしまうという結果となります。

 人生会議(ACP)の本質
ACP(人生会議)は単なる事前指示ではありません。よくある誤解として、同意書を取ること 延命の可否を決めることなどがあります。しかし本来の意味は、本人・家族・専門職が対話するプロセスであり、価値観や人生観を共有することです。そこで昨今では共同意思決定(Shared Decision Making)とし、「自己決定の時代」から「共に決める時代」へと移行しつつあります。

 ACPは“終末期から”では遅い
橋本先生は重要な視点として、「フレイル(虚弱)段階からACPを始めるべき」と主張します。フレイルの段階である、転倒・低栄養・認知機能低下などの小さな変化を「死のサイン」ではなく、対話のきっかけとして捉えるということです。


QOD(Quality of Death)という考え方
講演の中心概念はQOD=死の質です。良い最期とは、①身体的苦痛が少ない、②不安が少なく安心できる、③人とのつながりがある、④自分らしさが保たれていると先生は述べます。つまり、死の質とは、「どう死ぬか」ではなく「どう生ききるか」であるということです。

 医療・介護職に求められる役割
これからの専門職は、治療の提供者ではなく、人生の伴走者も役割として求められます。 具体的には、本人の人生の物語を理解する。価値観に沿った選択肢を提示する。家族も含めた対話を支えるということです。

 実践のポイント
講演を振り返り、以下が重要と思われました。
フレイル、食事量低下、ADL低下などのサインを見逃さない。治療や機能向上などの「介入」ばかりではなく「対話」も含めて検討することです。
点滴・栄養などの“何をするか”より“どう過ごすか”という本人の満足感を指向することです。
例えばアイスチップケアなど「何かしてあげたい」という思いを支え、家族をケアに巻き込む関わりを提案することです。これはグリーフケアにもつながります。
看取りは「死亡」で終わらせず、家族の悲嘆ケアまで含めて看取りをすることです。ACPはグリーフケアを容易にします。

まとめ
本講演が示した最も重要なメッセージは、「延命か否か」ではなく、「その人らしく生ききるための対話」です。
フュータイル・ケアを防ぐ鍵は、医療技術ではなく、日常の対話(ACP)にあることでした。
今後我々が地域における実践としては、フレイル段階からのACP導入、多職種による共同意思決定、QODを指標としたケアの再設計が求められるでしょう。

以下に参加者のアンケート調査結果をまとめました。

アンケート結果のまとめ
本研修は北見圏域在宅・施設ケア多職種連携ネットワークを対象に、「施設入所高齢者の死亡時ケアと医療対応に関する調査速報」と「フュータイル・ケアと人生会議」の二本立て講義を実施し、53名から回収率50.4%の回答率を得た。対象者は医療機関、介護施設、訪問看護、居宅介護支援、薬局にわたり、看護師や介護福祉士、薬剤師、リハ職、MSW、ケアマネジャー等、役割も経験年数も多様であった。

研修理解度は極めて高く、両講義とも95%が「理解できた」以上と回答した。特に「フュータイル・ケアと人生会議」は、「とても理解できた」55%、「理解できた」40%と、延命治療の無益性を回避し、患者・家族の意思を尊重するACPの重要性が広く伝わったことを示す。印象に残った学びとして、「フュータイル・ケアの考え方」(71%)、「家族との対話・支援の重要性」(69%)、「フレイル期からのACP開始」(67%)が上位を占め、参加者は「回復見込みのない延命介入の見直し」「価値観共有の対話重視」「早期介入によるQOD(死の質)向上」に強い関心を寄せた。

実践有用性は100%が「日常実践に役立つ」と回答し、研修満足度も全員が「満足」以上、62%が「非常に満足」と高評価を示した。これは、理論だけでなく具体的ケースや地域事例を交えた講義構成が、参加者各自の業務現場に即した学びとして機能した結果と考えられる。

研修による意識変容は著しく、ACPの必要性認識は89%が「変化あり」と答えた。自己評価による研修前後のACP理解・自信では、「自信あり+多少自信あり」が研修前5%→研修後100%に上昇し、医師・薬剤師を含む多職種がACPへの実践自信を獲得したことが確認された。今後の実践意向も100%が「行いたい+積極的に行いたい」と積極的であり、多職種協働を通じたACP実践体制の構築に大きな弾みがついた。

自由記述からは、今後学びたいテーマとして「認知症と意思決定支援」「グリーフケア」「在宅・施設看取り支援」「倫理的ジレンマ」「多職種SDMツール開発」の順に要望が示され、具体的手法や共有フォーマットの必要性が浮き彫りとなった。特に、認知症患者や家族支援時の対話技法、看取り後の遺族ケア、多職種間で共通認識を持つための文書・ツールの整備を求める声が多い。

職種別・経験年数別分析では、若手層(1~10年)は変化率・実践意欲が最も高く、21年以上層では講義内容の理解は高いものの「変化なし」とする回答も散見された。医師・薬剤師には事例検討を交えたフォローアップが必要と判断される。

総じて、本研修は地域内多職種がACPとフュータイル・ケアの理念を共有し、実践自信と意欲を飛躍的に高めた。次フェーズでは、学びを現場に定着させるために「ACP開始判断基準」「多職種共通フォーマット」「グリーフケア体制」の開発・展開、多職種SDMツールの導入を進め、在宅・施設を横断する包括的看取り支援ネットワークの構築を加速させることが求められる。

ご参加いただいたみなさま、またアンケート調査にご回答いただきありがとうございました。

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