昨年2月、医療情報サイトの記事で興味深い取り組みを知った。
北海道由仁町の診療所が警備会社ALSOKと連携して始めた「診療所駆けつけサービス」である。
このサービスは、由仁町立診療所に通院しているかどうかに関わらず、月額462円で利用できる。体調の急変など緊急時には警備会社を通じて医療機関へ連絡が入り、必要に応じて往診につながる仕組みだという。
サービスの仕組み自体も興味深かったが、記事の中で特に印象に残ったのは、由仁町立診療所の島田医師の次の言葉だった。
地域で通院が難しく困っている方が、病院からの紹介ではなく、自然な形で在宅医療とつながるようになることが、在宅医療が地域に定着した状態だと思っています。私は単に在宅医療の利用を増やしたいわけではありません。いざという時に往診を依頼できる仕組みを整えることで、過剰な在宅医療や不要な入院を防ぎ、地域全体で医療資源の最適化を図ることができると考えています。
この言葉には大きな示唆がある。
在宅医療を「増やすこと」だけを目的にするのではなく、地域全体の医療資源をどう使うかという視点で考えている点である。
私の住む北見地域でも、医療資源の減少は年々深刻になっている。これは北見に限った話ではなく、多くの地方都市が抱える共通の課題だ。
そのため各地で様々な取り組みが進められている。
例えば、主治医・副主治医制の導入による医師の負担軽減、ICTを活用した多職種間の情報共有、ACP(人生会議)の推進などである。これらはいずれも、医療・介護スタッフや住民の負担を軽減しながら在宅医療を支える重要な取り組みだ。
しかし、島田医師の発言が示しているのは、もう一つ別の視点である。
それは、医療資源が限られる地域だからこそ、地域全体で医療資源を最適に使うという「文化」を育てる必要があるという考え方だ。
島田医師は、かつて勤務していた長野県の佐久総合病院での経験について、次のように語っている。
患者さんがある程度虚弱になった段階で通院をやめ、在宅医療を受けながら地域で生活することが一般的な文化として根付いていました。私は、在宅医療の理想形はそのような姿だと考えています。
ここで語られているのは制度やルールの話ではない。
地域の中に自然に根付いた医療の使い方の文化である。
人口減少が進む時代、地域の課題は数多い。医療資源の確保を、減少していく医療・介護スタッフの努力や工夫だけで解決するには限界がある。だからこそ、資源の確保と同時に、地域全体で医療資源をどう使うかという視点が必要になってくる。
昨年12月、北海道の在宅医療連携拠点事業の開始にあわせて、北見地域でも「北見在宅圏域多職種連携・ケアネットワーク」という医療・介護専門職のネットワークが立ち上がった。
発足会で講演された医師は、次のように話していた。
多職種連携の次に必要なのは“チームをつくること”、そして“地域をつくること”です。専門職が連携するだけでは不十分で、共通の目的や協働の意思を持ち、深いコミュニケーションを通じて地域そのものをケアの場として育てていく必要があります。
医療や介護の枠を超えた地域活動、例えば防災訓練や地域イベント、食事会など、一見すると医療とは関係のない活動が、実は地域のつながりを生み、在宅医療を支える土壌になっていくという。
地域づくりとは、制度を整えることだけではない。
人々の中に「それが当たり前だ」という感覚が、少しずつ育っていくことなのだと思う。
過剰な在宅医療や不要な入院を防ぎ、地域全体で医療資源を大切に使う。そうした考え方が、医療・介護職だけでなく地域の住民にも共有されていくこと。それが、医療資源の限られた地域でこれからますます重要になるのではないだろうか。
地域住民が医療資源の減少を危惧して行政に不満をぶつけるだけではなく、医療・介護職や行政とともに、地域の医療・介護資源をどう守り、どう使っていくのかを考える。
私が担当している「在宅医療に必要な連携を担う拠点」の役割も、単に医療機関同士をつなぐことではない。
地域の中に、医療資源を自分事とすること。暮らしと医療が「共存」する文化を育てていくこと。その視点の重要性を、今回の記事から改めて考えさせられた。

