先手相談とは
相談支援には先手と後手の2種類があると思った。支援効果を今現在のことか未来への準備とするかという視点だ。これからの対人・地域支援を行う際は先手相談が有効・効果的ではないかと気づいたので備忘録として掲載する。
結論から先に述べると、これまでの生活課題が発生してからの相談支援。いわば後手の対応に終始するのではなく、生活課題が発生しにくくする、または発生しても限りなく早い段階で課題に対応することで支援にかける労力を低減する。いわば先手の活動が求められるだろうというものである。
医療分野の観点で言うと「予防に勝る治療なし」。医療の世界では常識だが、介護分野ではあまり意識されていないのではないか。事が起こってから対処するよりも、将来に大きな問題が起きぬよう予防策を講じる活動を意識して実施することが有効だろう。
後手相談の限界
先日地域包括支援センターの方と話しをしていた時のこと。これからの地域包括支援センターの取り組み、特に総合相談の在り方についての話題となった。人口減少、後期高齢者の増加、労働人口・医療介護従事者が減少するこれからの地域にあって、地域包括支援センターの総合相談体制とはどのような方向性がいいのだろうかがテーマだった。
単身世帯や高齢者夫婦世帯の増加により、ますます医療介護の課題を抱える方が増加する。それでなくても地域包括支援センターへ寄せられる相談件数は増加傾向にある。事が起こってから対処する毎日に忙殺され続け、何もしないとどうなるか。想像するに、寄せられる相談の対応待ちに1ヶ月を要するなどという自治体が近いうち生まれる可能性がある。後手相談は決して間違ってはいないのだが、縮小社会にあってこのままではまずいという支援者の意識へのギアチェンジが必要になると思う。
分かっちゃいるけどどうしたらいい
ここまでの理屈はよくわかってもらえるだろう。問題は「じゃあどうしたらいいのか」ということだ。でもよくよく考えると、地域包括支援センターの活動の中にも「先手相談」の取り組みは既に実施していることに気づく。介護予防・日常生活支援総合事業、生活支援体制整備事業や認知症総合支援事業などだ。しかしこれを「先手相談」を実現するための手段として活用するかどうかはセンスが問われる。地域包括支援センターの多くは自治体の委託で活動している。事業の目的に現場から自治体へ方法のアレンジ、加味の提案を許してくれるかどうか。自治体の懐の深さも問われよう。
しかし、現場の地域包括支援センターの方へエールを送りたい。みなさんこそが地域の個別の課題を広くかつ深く熟知しており、「このままではまずい」という実感と経験を誰よりも多く知っておられると思う。どうしたらいいかの第一歩は、自信をもって委託元の自治体とこれからの地域課題を事業の表面的なことにこだわらず、率直に語り合える場を作ろうとする情熱を持つことだろう。
先手相談とは地域住民の気づきの網の目を活用すること
日常生活支援総合事業における住民主体の通いの場(体操教室) を例にあげてみよう。通いの場とは、年齢や心身の状態等によって高齢者を分け隔てることなく誰でも参加することができ、介護予防などを目的とした活動を行う場であるとされている。(通いの場の課題解決に向けたマニュアル Ver.1 令和6年3月 厚生労働省より)。この取り組みの目的の第一義は介護予防である。しかしよくよく通いの場を観察すると、仲間づくりの場でもある。最初は知らない同士でも仲間になれば事情は変わる。通いの曜日を忘れる仲間がいれば途中で立ち寄って声をかけたりもするだろう。体操の帰りにはついでにゴミ出しをしてくれるかもしれない。仲間とは赤の他人ではなく、何かあったら気を使ってくれる存在だ。認知症の進行に仲間なら早く気がつく。かといってプライベートまで立ち入るべきかどうかは悩むところだ。そこで仲間から地域包括支援センターへ連絡が入る。「最近通いの場の曜日を忘れているみたい、どうやら飼っていた猫が亡くなって落ち込んでいるみたい」という具合だ。ここで早期の介入が可能となる。
にっちもさっちもいかない。行き詰まった状況やどうにもならない状態になってからの総合相談対応ではなく、日常生活の少しの変化をキャッチできる体制づくり。つまり住民主体の通いの場は、地域住民の気づきの網の目を細かくするという副次的な効果も狙うことができる。大切なことは、単に国から降りてきた事業をマニュアル通りに実施するのではなく、「先手相談」を実現するための手段として支援者側が意識して活動するということなのだろう。
居宅介護支援における先手相談の活用
先手相談とは地域包括支援センターの活動だけに留まらない。居宅介護支援の場面でも活用できる。ケアマネジャーは忙しい。中でもその原因は度重なる介護報酬改定の度に増える書類作成事務だ。ケアプラン作成のためにはサービス担当者会議の開催や福祉用具の使用にも、意見聴取や確認作業が求められる。まるで不正をしていない証明材料の作成業務だ。これでは利用者の疾病悪化やADLの低下に気付いても対処する時間がない。しかし利用者の変化を予測し、サービス事業所から連絡もらえるよう依頼することはできる。通っているディサービスのスタッフへ認知面低下の進行のサインがあったら連絡をもらうよう依頼したり、家族へ食事内容や飲水量の確認を依頼したりして疾病が悪化する前に対応することができよう。ケアマネジャーが一人ですべての情報収集を行うのではなく、変化のアラートをいろいろな方から受け取れるルートを作る。これも先手相談と言える。蛇足だがこの支援を検討するに有効な道具がある。適切なケアマネジメント手法である。
病院の退院支援における先手相談の活用
労働人口・医療介護従事者の減少は「退院しづらい地域」を生み出す。これまで受けられた医療介護サービスが受けづらくなる。施設への入所もままならなくなる。かといって病院へ入院し続けられるわけではない。医療機関の退院支援部門はケアマネジャーと同様忙しい。短い入院期間で元の生活場所へ戻られるならいいのだがこれが大きな苦労とストレスになっている。入院中に認知機能が低下したらなおさらだ。そこで病院の退院支援部門は大まかに2つの対策が考えられる。
一つは院内のケアチームの体制強化だ。短い入院期間で患者の意向を聞き取り、患者のニーズを実現するフラットでフットワークのよいチームワークとチームの技能向上だ。
次の二つ目が先手相談になる「退院しやすい地域づくりに病院として協力する」ことだ。これは今現在、病院が行う「しごと」ではない。しかし医療介護サービスが減少する縮小社会では、現在と同じ認知機能やADLであっても将来、自宅退院が難しくなることが想定される。前述の地域包括支援センターの地域づくりに任せてもいいのだろうか。病院ができることとは何か。地域事情や病院の機能にもよるが、地域包括支援センターが行う住民主体の通いの場づくりに協力することだと思う。住民の健康相談や運動時の痛みや対処に地域包括支援センターが助言することは難しい。地域包括支援センターの申し出に医師をはじめ、理学療法士等や管理栄養士などが積極的に協力するだけで彼らは大いに助かる。また協力活動で得られる地域の情報はこれまで病院が知るよしもない性質のものだろう。
温故知新の先手相談
先手相談は新しい考えではない。しかし私たち相談支援者は目の前の問題に忙殺され、将来に起こる問題を今のうちから軽減させるという取り組みに無頓着なのではないかと思う。そういう意味で今、改めて先手相談という言葉を用い意識して、皆で将来の問題を低減させていく取り組みや認知の拡大が必要ではないだろうか。
また、DX(デジタルトランスフォーメーション)の活用も欠かせない。対話型AIの活用による社会的フレイルの早期発見など、ヒトが減少するなか、ヒト以外でおこなえることをシフトさせ、本気で取り組もうとしている方は私の見る限り少数だ。転ばぬ先の杖を真剣に考える仲間との語りも重要になるだろう。
番外編
最近、作成した文書をAIに要約させるのがマイブーム。以下に要約も掲載してみる。意外によくまとめられている気がする。
先手相談と後手相談とは
筆者は相談支援を、問題発生後の対応に終始する「後手相談」と、問題が発生しにくいように予防したり、早期に対応したりする「先手相談」に分類しています。医療における「予防に勝る治療なし」の考え方を介護分野にも適用し、生活課題が深刻化する前に介入する「先手相談」の必要性を訴えています。
後手相談の限界
人口減少、高齢化、労働人口の減少が進む現代社会において、問題発生後の「後手相談」だけでは、相談件数の増加に対応しきれなくなるという危機感を示しています。このままでは、相談対応に時間がかかり、必要な支援が遅れる事態が生じかねないと警鐘を鳴らしています。
「先手相談」への転換と具体的な活用
「先手相談」への転換の必要性を認めつつも、その具体的な方法が課題であると指摘しています。しかし、地域包括支援センターが実施している介護予防・日常生活支援総合事業や生活支援体制整備事業などが、実は「先手相談」の手段として活用できると述べています。
具体的な活用例として、以下の3つの分野を挙げています。
地域包括支援センター: 住民が主体的に参加する「通いの場」が、地域住民の「気づきの網の目」を細かくし、早期介入を可能にする副次的効果を持つことを強調しています。事業をマニュアル通りに実施するだけでなく、「先手相談」の視点を持って活動することの重要性を述べています。
居宅介護支援: ケアマネジャーが利用者の変化を予測し、サービス事業所や家族からの情報提供ルートを構築することで、疾病悪化前の対応が可能になると提言しています。
病院の退院支援: 労働人口減少による「退院しづらい地域」化への対策として、院内ケアチームの強化に加え、病院が「退院しやすい地域づくり」に協力することの重要性を説いています。特に、地域包括支援センターが行う「通いの場」づくりへの協力が、地域の健康課題解決に寄与すると述べています。
温故知新の先手相談
「先手相談」は新しい考え方ではないとしつつも、現在の相談支援者が目の前の業務に追われ、将来の問題軽減への意識が薄いことを指摘しています。改めて「先手相談」という言葉を認識し、DX(デジタルトランスフォーメーション)の活用も含め、将来の問題を低減させる取り組みや認知の拡大が必要だと締めくくっています。